八ヶ岳南麓山鳥亭の日常を綴ります。
 
2017/11/01 17:15:00|教育
交通安全指導と道徳の関係
秋の交通安全週間では、今年も高齢者を集めて交通安全講習があったと報じられた。年寄りを集めて、「もう、若いころのように素早く道路を渡れないから気をつけなさい」とか、「渡れないと思ったら、渡らずに車が通りすぎるのを待ちなさい」と教えるパターンも、例年通りである。去年の映像を、そのまま流してもだれも気付かないかもしれない。
 
そしていつも思うのだが、これって道徳的に問題じゃなかろうか。
 
話は飛ぶが、「道徳」が2018年度から小学校に、2019年度から中学校に、教科として導入される。国語や算数といった従来からある教科とは違って評価が難しいので「特別の教科」と言われ、一応別扱いになっているらしい。これまで道徳に副読本はあったが、教科書はなかった。「特別の教科」になることで教科書が発行される。ニュースで「格上げ」と言われる所以だ。
 
「特別の教科」は、なんとなく耳に違和感のある命名だ。評価をしないことが「特別」に許される教科という意味か。すんなり、道徳を教科の一つとする、ただし評価はしない、と言えば済むことなのに、耳慣れない語句を創作するから、「批判をかわすためか」などと穿った見方をしたくなる。
 
それはともかく、年寄りを集めて、もう、若いころのように素早く道路を渡れないから気をつけなさい、と毎年教えている国がイメージしている道徳とはどんなものか知りたくなったので、文科省が発行している副読本「私たちの道徳」の小学校5・6年用と、中学校用を取り寄せた。
 
小学校5・6年用の副読本のある頁には、「こんなことはしません」とあって、こんなことの中に「弱い者いじめをしてはいけません」とある。大事な事なのだけど、「弱い者」と十把一からげにしてしまって、様々な条件の下で弱い者が弱い者にならざるを得ない状況への視点がない点が気になる。世の中には強い人と弱い人がいるという単純な構造を子供の頭に植え付けはしないか。そうすると子供は、ただもう「弱い者」になりなくないという一心で行動することになるだろう。
 
中学校向けの副読本には、いじめた側の体験と反省の文があり、それに対する生徒の感想が数編掲載されている。いずれも「いじめ」の行為に対する反省やら批判が書かれているが、「いじめ」の対象となった子がなぜ「きたない」服を着なければならなかったのかとか、その子がもっと清潔な格好ができるようにするにはどうすればよいか、と言った視点の感想はない。文科省は、そういう問題解決型の視点は求めていないのだろうか。それは社会に対する批判になるから、と考えるのは、これも穿ちすぎかもしれないが。
 
道徳の副読本をざっと見て、やっぱり年寄りに「気を付けろ」という国だと思った。そう思った理由を説明するために、上にも書いた「いじめ」問題を例に挙げよう。「いじめ」の問題を扱う時、たとえば「いじめられっ子」に「もっと強くなりなさい」と言うとしたらどうだろう。今日では、そのような指導は不適切だとする考えは、かなり行き渡っているが(実際には、まだまだみられるかもしれない)、上に書いた老人に対する交通安全指導は、それと似たようなものではないだろうか。弱者が弱者にならざるを得ない原因を明らかにして、できるだけその原因を取り省いたり、影響を緩和したりする努力をするべきだ。交通安全で言えば、ドライバーへの注意喚起と交通法規の改正などである。ドライバーに速度の抑制、歩行者保護・優先を訴えると同時に、速度規制を適正に行う。現在の交通法規では、速度規制のない道路の法律上の制限速度は時速60kmである。歩車道の区別のない道を歩いていて、時速60kmで自動車が横を通過したときの恐怖感は大きい。実際、そういう経験はしばしばある。
 
社会的弱者を生み出すのは、交通手段の発達ばかりではない。以前、「シャルリー・エブド襲撃事件」に関連して風刺についての考察を書いたが(「風刺について」2015/3/14投稿)、フランスでは、表現の自由が少数派であるイスラム教徒を社会的弱者に追いやっている。一見、文句なしにすばらしいことのように見える、表現の自由や経済活動の自由が社会的弱者を生むところに、「道徳」が関与すべき空間があるように思うのだがどうだろう。文科省の副読本に欠けていると思ったのは、そういう観点である。世の中には社会的弱者がいる事実を知り、弱者が弱者の立場に追いやられている理由などを、目を背けずに考える態度を育てることこそ道徳教育に求められる大事な観点だと思う。
 
高齢者に対する交通安全指導が、道徳のあるべき方向からいうと逆行していると書きたくて、つい話が道徳教育にまで膨らんだ。
 





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