平成20年11月29~30日に山梨県甲府市で開催される第8回日本救急医学会中部地方会の公式ホームページです。
 
2008/11/22 12:23:56|お知らせ
ランチョンセミナー2
ランチョンセミナー2のご案内です。

第2会場で、12:00~12:50の予定です。

田辺三菱製薬株式会社との共催です。お弁当とお茶が付きます。定員は、100名です。整理券配布は予定しておりません。午前中のプログラムが終わり次第、会場から全員一度退室していただきます。会場前廊下の指定場所にお並びください。



DICの病態・診断・治療 ―敗血症DICを中心にー

講演者:森下 英理子 先生
金沢大学大学院医学系研究科病態検査学准教授
  金沢大学医学部付属病院血液内科血栓止血グループ

司会:松田 兼一 先生
山梨大学救急集中治療医学講座教授

播種性血管内凝固症候群(DIC)とは、基礎疾患の存在下に全身性かつ持続性の凝固活性化をきたし、全身の主として細小血管内に微小血栓が多発する究極の血栓性疾患である。旧厚生省(厚生労働省)研究班の疫学的調査によると、DIC患者数は73,000人/年と推定され、死亡率は56%と極めて予後不良である。DICそのものが死因となった症例が9,800人/年おり、DICの診断技術の向上や治療法の改善が年間約1万人のDIC患者の救命につながる可能性がある。
DICの三大基礎疾患は、敗血症、固形癌、急性白血病であるが、救急領域ではその他に外傷、熱傷、劇症肝炎、急性膵炎などがあげられる。敗血症においては、LPSやTNF、IL-1などの炎症性サイトカインの作用により、単球/マクロファージや血管内皮から大量の組織因子(TF)が産生され、著しい凝固活性化を生じる。また、血管内皮上に存在する抗凝固性蛋白であるトロンボモジュリン(TM)の発現が抑制されるため、凝固活性化に拍車がかかることになる。さらに、血管内皮から産生される線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)が過剰に産生されるため、生じた血栓は溶解されにくくなり、微小循環障害による臓器障害が重症化しやすい。
2005年に日本救急医学会より発表された「急性期DIC診断基準」は、感染症に合併したDICの早期診断に威力を発揮し、治療開始基準としての有用性が高い。しかしながら、DICの病態から考えると、凝固活性化のマーカーであるトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)や、線溶活性化の程度によりDIC病態は大きく変わるため線溶活性化のマーカーであるプラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)の測定が、DIC診断には重要である。したがって、今後TAT、PICが診断基準に組み込まれるようになり、また救急医療の現場でこれらのマーカーの検査結果が至急に得られるようなシステム作りが行われることを期待したい。
DICの治療としては、基礎疾患の治療、抗凝固療法、補充療法がある。抗凝固療法としては、ヘパリン類およびアンチトロンビン(AT)製剤、合成蛋白分解阻害剤などいくつかの薬剤が知られているが、DICの病態に応じて適切な薬剤を選択する必要がある。さらに、2008年5月より、遺伝子組換えTM製剤(rTM)が日本において使用可能となり、DICの全く新しい作用機序を有した抗凝固療法として注目される。敗血症では血管内皮細胞上のTMが低下しAT活性も低下しているため、病態学的には両者の併用などは期待できる治療といえよう。