こんにちは。
「モネの絵(多分、複製画)はありますか?」と初めて来店されたお客様に、
ロンドンの競売に出品される約23億円(落札予想価格)の作品をご紹介してドン引きされた、
アートギャルリー日本ぶっくあーと・見習い13年目のmayumiです。
ただ今、弊社ギャラリーの店長(私の母)が肋骨(ろっこつ)骨折治療中につき大変ご迷惑をおかけいたしております。
さて前回の続き。
アートな話題とは無関係の、店長(私の母)が骨折した顛末(てんまつ)の前編です。
発端は、花見と温泉が大好きな母親を喜ばせようと、バラ庭園が有名な山梨県内の温泉施設に連れて行ったこと。実に親孝行、われながら上出来、良くやった、と終わるはずが、極楽気分で浴槽から出た母がスリップして、危うく極楽浄土にトリップさせるところでした。
そこは3段ある石段。 蹴上(けあげ=1段の高さ)が高く、危険度マックスなのに、手すりもスリップ防止加工もありません。かなり慎重に一段ずつ降りていたにも関わらず、2段目から3段目に移るときに「ズルッ」。
高さがあったためか、一瞬体がフワッと宙に浮き、恐ろしくエッジの効いた石段の縁に背中から落ちて「ドンッ」。続いて、ひじ、お尻が「ガンッ」「ドンッ」。
スローモーション映像を見ているようでしたが、実際はあっという間の出来事。周囲の人もビックリです。私は、そばにいながら片手すら出すこともできず、ムンクの「叫び」のように顔をゆがめただけでした。
“浮き輪”が付いた下腹以外には脂肪もない71歳の体。
石の塊に勢いよく叩きつけられては、ただ事では済みません。
「風呂場で転倒、骨折」「温泉で転倒、死亡」、良く聞く話じゃありませんか?
明日は我が身と、転倒しないように常日頃から細心の注意を払っていた母。
でも、滑ってしまった。
頭を打たなかったのは幸いで、もしもあの勢いで後頭部を強打していたら...
ショックで放心しているものの意識はあります。しかし顔色がたちまち真っ青に。
肋骨骨折、肘頭骨折、大腿骨骨折、脊椎損傷、内臓損傷...
どこかで聞きかじった単語と生半可な知識が頭の中でグルグルするせいで、ひるむ私。
病院? この近くにある? 係りの人を呼んだ方が良い? 救急車?
っていうか服は着せられるの? うぅ、親子ともども全裸はマズイ...
驚異のガマン強さを誇る母は、痛みに歯を食いしばりながら
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と自己暗示のように繰り返します。
そして、力ない声で「裸で運ばれるのはイヤ...」とのこと。
動かしたくはなかったのですが、しばしの後、抱えるようにして何とか脱衣場へ。
係の女性に「転んで、かくかくしかじか」と伝え、施設側の指示を仰ごうと思いました。
ところがです。
冷静を装いつつも混乱の極みにいる私の説明では伝えきれなかったからでしょうか。
それとも化粧を落としてマユゲが消えていた私の顔がおかしかったからでしょうか。
「大丈夫ですか?」の一言もないどころか
「モナ・リザ」のごとくニヤリと口の片端に笑いを浮かべたその女性。
別件なら「笑いました?笑いごとぢゃぁありませんよ」とツッコミたくなるところ。
でもさすがの私もこの時は、施設の危機管理姿勢に恐怖を感じました。
現場を示すという手段も試したものの、転倒した本人に意識があるせいか
「たいしたことはあるまい」と深刻に思われていない様子。
はい、もうやめた。これ以上時間を費やしては処置が遅れます。
「モナ・リザ」には、「湿布ありますか」「管理者に手すりをつけるように言ってください」と、弱気な主張を2つ述べるだけにとどめ、病院へ行く準備開始です。
どこかへ消えていた「モナ・リザ」が再登場して、
「バンソウコウならあります。それから責任者には私から言っておきましたが、お客さんからも言ってください。」とのアンサー。
どなたに報告してくれたかは謎ですが、「大丈夫ですか?」と様子を見に来てくれる人すらいません...
豊かな自然に恵まれた、のどかな温泉施設の場合、施設の安全管理意識も危機管理姿勢も、のどかである、と身をもって知りました。
ここで、今後の私の教訓:
●「滑ります。注意!」系の貼り紙がある浴場は、「滑る状態を放置している施設である」と考えることとし、魔物に向かう気持ちでビシッと気を引き締める
●脱衣場、浴室の《非常呼び出しボタン》設置場所をあらかじめ確認しておき、有事には遠慮なくビーッと鳴らす
●危険度満点の、手すりもスリップ防止加工もない、とくに蹴上の高い石段では、オシリを使って降りる
●お風呂で転倒し明らかに負傷したと感じた場合、全然大丈夫じゃないのに「だいじょうぶ」と言って無理やり起き上がってはいけない
●転んで恥ずかしい、全裸で恥ずかしいと、思っても、腹をくくって親切な周囲の人に助けてもらう
●嫌なことを思い出すので、ルーブル美術館に行っても「モナ・リザ」は見ない (これは私の個人的なことです)
さて次回は、顛末の後編です。