新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
CATEGORY:民俗・芸能

2013/05/23 13:32:00|民俗・芸能
照手姫から始まって
先日甲州街道の小原の本陣を見た時に、近隣の山間の美女谷温泉が目に着いた。
以前から車で街道を通る時に気になっていた土地である。
今回知ったのは、説経節の『をぐり』(小栗判官)の照手姫が身を寄せていたとか生まれたとかの伝説のある谷らしい。
谷あいに入っていったら、温泉は既に閉業、山道は細くなるばかりで心細くなって引き揚げてきた。
なぜこんな僻遠の里に照手の伝説があるのかと色々考えさせられた。

見えない、聞こえない、話せない、歩けないの小栗判官といい、小栗とちぎった照手が蛇身だったとか、牢籠で相模川に沈められそうになった逸話など、障害者や難病人への差別や隔離の習わしを連想させる。
そうして、これが人形操りの門付け芸と一緒になって、大いに人気があったというこの国の民俗。
これを機会に、「山椒大夫」「しんとく丸」「信太妻」等の説経節を読んでみようと思った。
また、小沢昭一の収集した「日本の放浪芸」のCDも改めて聴いてみるか、と思った。
小沢の困ったところは、勝手に割愛したり、自らが割り込んだり、勝手な解釈を演芸者に押し付けたり、まねて演じてみたりしているところだ。
おちょこちょいの江戸っ子でなければできなかった仕事だが、江戸っ子なりの軽薄さも仕事に反映している。
膨大で貴重な音源が残されているだろうし、今は消えてしまった芸も多く含まれている。
この公開こそ期待されるところだ。

甲州にも流鐸させられた後陽成天皇の八の宮良純法親王のことや、奈良田に流されてきたさる女帝のこと、はては深沢七郎の小説「妖木犬山椒」のことなど、とつおいつ考えてしまった。

榎並和春さんの個展「どこか遠く3」も、千葉だが、できれば拝見したいと切に思う。

写真:甲府湯村温泉「明治」






2013/05/04 16:08:21|民俗・芸能
自然を畏怖するということ

山道や村道で車を走らせていると、普段見掛けなかった幟を発見して、
「ここにもお社があったのか」
と驚くことがある。
お神楽の奉納なんかに巡り合わせれば、これは大変な僥倖だと感じる。
と同時に、いまだに暮らしや農業サイクルの中で、これを守り続ける習慣のあることにほっとする。

天皇制だの国家神道だのと、ややこしく観念的なことはさておき、原初からの我々の受け継いで来た自然崇拝や穢れを忌む念を、思い出すのだ。
これがあれば、原発だのなんだのという問題が起こりようもなかった。
まして、自国の原発災害の後片付けの路線も見えないのに、外国にはその技術、システムを売ろうとするなどという、みっともない詭弁は使えないはずだ。

富士山とその周辺が世界文化遺産になりそうだ。
この地域は、どこかの街のように、食べ歩きのラクチン観光地になるほど、美味しいものもなくてよかった。
しかし、これで儲かりそうなどとはゆめゆめ考えない方がいい。

とは言え、「世界自然遺産」を諦めて、「文化遺産」に切り替えたのは、作戦として成功したのだろう。
スバルラインができて、五合目まで自動車がとおり、山麓の植生が死滅しつつあった時、作家新田次郎が地元新聞に頼まれて書いた原稿(1964年筆か)を見たことがある。
そこには富士山周辺の自然破壊を痛烈に批判し、「乞食観光」という激越なことばを入れていた。
結局これは新聞社は載せず、穏当な記事に書きなおしてもらった。
原稿の欄外に、新田は「これは○さんにあげてください」とぽつりと鉛筆書きしている。
その怒りは大変なものだったとは、奥さんの藤原ていさんの言である。
「○さん」は地元新聞の記事の担当だった。
富士山が「自然遺産」になれなかった理由は明らかだ。

新田は富士山山頂に気象観測用の球形ドームを備えた時の気象庁の測器課長だった。
彼には富士山頂で越冬観測を強行した野中到夫妻を描いた小説「芙蓉の人」ほかがある。
彼なら、今、何と警告するだろうか?
富士山とその周辺を畏怖すべし。

写真上、(山梨県北杜市須玉)根古屋大神宮の大神楽奉納。
下 富士河口湖町大石から






2013/03/07 10:13:40|民俗・芸能
甲州夢小路イベント
甲府にオープンする観光施設「甲州夢小路」のイベントを、鏡味仙三君がプロデュースするむねのメールをもらったので、転載する。

①【甲州夢小路寄席】
 
◆3月24日(日)昼2時~3時
◆よちゃばれ広場特設テント(甲府駅北口すぐ)
◆林家正蔵、鏡味仙三郎社中、林家たけ平、林家まめ平
~落語と太神楽~
◆木戸銭 無料
◆お問い合わせ アドブレーン社055(231)3311
 
 
②【林家正蔵独演会】
~甲州夢小路オープン記念~
 
◆3月24日(日)夜6時~8時
◆桜座(甲府駅南口から徒歩10分)
◆林家正蔵、鏡味仙三郎社中、林家たけ平、林家まめ平
~落語と太神楽~
◆木戸銭 前売り3000円、当日3500円
◆ご予約 桜座055(233)2031
 
 
③【江戸太神楽の町内回り】
~甲州夢小路オープン記念~
 
◆3月24日(日)昼11時ごろ~夜9時ごろ
◆甲府駅北口・南口・中心部商店街
◆鏡味仙三郎社中
~獅子舞・曲芸・紙切りなど~
◆お問い合わせ 「江戸太神楽の町内回り」実行委員会 090(9952)1447






2013/01/08 10:55:00|民俗・芸能
初詣

盆も正月もなく、月水金とクリニック通いを繰り返す身の上で、空いた日に何でも用事を済ますことになる。
元日から近所の御崎神社に詣で、その足で家の「奥津城」のある愛宕祖霊神社に詣でる。
ま、願うことは体調維持と交通安全が一番だ。
昨年は、まだ、体調回復に自信もなく、愛宕さんの山登りも辛かろうと、詣でることもできずにいた。
今年は、どちらも手ずから破魔矢、お下がりを受けてくる。

5日になって、車の試し乗りの意味も込めて、御嶽の奥の金桜神社(写真上)に詣でる。
私はこのお宮になぜか心ひかれている。
年によって、ずいぶん道路状況が違うが、今年は、凍結も甚だしくなく、初詣の人もすでに減っていてよかった。
今年は水晶玉なんかは買わずに山を下りてきた。
刻限も遅く、甘酒をいただけなかったのは、多少残念だった。

「ネー、ウシ、トラ、ウー、タツ、ミー、ミーって何だっけ」ってCMに笑ったが、
「巳」といえば、他人にはあまり信じてもらえないが、ずいぶん昔、奈良の大神神社(三輪明神)に初めて詣でた際、杉木立の根元に小さな白蛇を見たことを思い出す。
その時は普通に驚いただけだったが、とても僥倖な出来事だった
その後、何べんも大神神社に詣でたが、そういうことは一度もなかった。
大神神社には「巳の神杉」(写真下)というのがあるくらいで、巳は神の使いだそうだ。
「巳さん」には、私は、何度も助けられているのかもしれない。
怖がってはいけないかも。






2012/11/07 7:22:38|民俗・芸能
新美南吉「最後の胡弓弾き」の音色

『新美南吉童話集』のなかでも「最後の胡弓弾き」という作品がとりわけ好きだ。これは〈童話〉の域を超えて優れた作品だと思う。


木之助は小さい時から胡弓の音が好きだった。十二になって上手な牛飼いのところへ通って習い始め、旧正月になると従兄の松次郎と町へ門附に出かけた。太夫の松次郎が着物、袴、烏帽子で鼓、木之助はよそ行きの晴着にやはり袴で胡弓を持っていた。町には二人を可愛がってくれる味噌屋もあった。小さな村には何組かいて、上手な者は都会や信州へも行って稼いだ。


門附は次第に流行らなくなり、呑んだくれた松次郎は「もう止める」と言い出す。迷った挙句、木之助は一人で出かける。味噌屋の主は彼を歓迎してくれる。


木之助が病気をして二年間を置いて出かけろと、町の家には「諸芸人、物貰い、押し売り、強請(ゆすり)、一切おことわり、警察電話一五〇番」と張り紙がしてある。味噌屋では意地悪だった女中が中へ入れてくれるが、主は亡くなっていた。仏前で弾いて門を出る。


古物屋の前で、木之助は胡弓を売り払おうとする衝動に駆られる。30銭だった。末っ子のためのクレヨンを15銭で買うと、胡弓のことがしきりに悔やまれた。買い戻そうとすると今度は60銭だった。


「午後の三時頃だった。また空は曇り、町は冷えて来た。足の先の凍えが急に身に沁みた。木之助は右も左もみず、深くかがみこんで歩いていった」


何度も読んでいるが、私はこの童話の胡弓の音を「越中おわら風の盆」の闇夜で聴いたりした、どちらかと言えば哀切な音として聴いていたのである。さもなければ、牛飼いに5,6曲習ったというし、味噌屋の主が好んで鑑賞してくれたというから、芸術音楽としてのたとえば藤枝流の「鶴の巣籠」とか「蟬の曲」「千鳥の曲」『栄獅子」「下り葉」「唐子楽」といった雅なもののようにも受け取っていた。


ところが、「日本の放浪芸」というCDで、鼓、三味線と共に正月に門附をして歩く尾張万歳、三曲万歳を聴いてはっとした。これは「ちゃかぽん、ちゃかぽん、ぎーこ、ぎーこ、ぺん、ぺん」と至って陽気で賑やかなのである。元来、正月の祝福芸なのだからそうあるべきなのが本当で、聴きすすむと、鳥取の人形芝居の大黒舞も(三味線、胡弓、太鼓)、香川のはりこま(三味線と胡弓)も同じく、実に聴いているこちらの頬が緩むような、いかにもおめでたい芸だった。


私は分からなくなってしまった。25歳の作者が書いたこの童話のBGMを賑やか、それとも哀切、どちらに聴こうか、と。それとも、音曲が底抜けに明るいから、余計に状況が切なく感じられるのだろうか、とも。







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