科学の世界についてこれまで述べて来たことのなかで、すべてのことを額面どおりに受けとってきた。という意味は、単にわれわれが科学の言うことを信じるという態度をとってきたということだけではない。なぜなら、この態度はある点までは、それらの問題について専門家でないすべての人にとって、合理的な唯一の態度だからである。この態度が合理的であると私がいう意味は、われわれ科学者から聞いたことを信頼せねばならないということではない。なぜなら、おそらくやがては当然修正が必要なことがわかるということが、一般に認められているからである。私が意味していることは、現在の最善の科学的見解は、素人のさまざまな仮説のどれよりも真理または近似的真理である見込みが多いということである。この事情は標的を射撃する場合と似ている。下手な射手なら、標的な中心をあてる見こみは少ないが、それでもやはり標的の中心にあたる見こみは、他のどんな等しい面積にあたる見こみよりも多い。同様に科学者の仮説は、完全に正しい見こみは少ないが、科学者以外の人のさまざまな仮説のどれよりも正しい見こみが多い。