お客様からいただいた質問をもとに、今日はリトグラフ(石版画)の制作工程についてお話したいと思います。
Q リトグラフ(石版画)の版には“みかげ石”が使われるのですか?
リトグラフ(石版画)は、版材を彫らずに、化学処理をすることでインクがつくところとつかないところを作り出す版画の技法です。
リトグラフの「リト」とはギリシャ語の「石」を意味するlithosに由来しています。
「グラフ」はギリシャ語の「描く、記す」を意味するgraphiaが語源です。
つまり“石に描く”ということですが、ただし、その石は何でもいいわけではありません。
リトグラフに使われるのは、石灰岩です。
なぜなら、石灰岩はスポンジのように無数の微細な孔(あな)あって、
水分や油脂を受け付けやすいという性質があり、
また石灰石のカルシウムと薬品の化学反応を利用して
絵の部分を定着させることから、石灰岩が適しているのです。
ただし現在では、石板は重い、値段が高い、磨くのが大変、ということで
多様な版材が使われています。
おもに、亜鉛(ジンク)やアルミの薄い金属板ですが、最近では木板などもあります。
石板を使った伝統的なリトグラフでは、ヨーロッパの石灰石が使われます。
代表的なのは南ドイツ・ゾルンホーヘン産の石灰石です。
18世紀末(1798年)にリトグラフの技法を発明したドイツ人のアロイス・ゼネフェルダーが、
南ドイツで採れる石を用いたのが始まりです。
かなりの手間を要するリトグラフ制作ですが、
石板を使う際の主要なステップは下記のようになります。
1) 石版の表面を研磨
刷ったときにムラができるため、数ミリの凹凸も許されない。
2) 砂目たて
作品に淡い色、濃い色などの諧調の幅をだしたいときは、さらに石版表面に無数の突起(砂目)を立てる“砂目立て”とよばれる作業をする。
石版に油性クレヨンで絵を描いたときに、この突起にクレヨンが付着するが、
この付着する密度で、仕上がりが左右されるから。(淡い色の部分・濃い色の部分)。
3) 石版に絵を描く
使われるのは、リトクレヨン・ろうをベースとした墨など油性の材料。
4) 石版に化学処理をする
アラビアゴムという樹液を乾燥させたものを水に溶かしたアラビアゴム水溶液と硝酸を石板の表面にぬる。
→ 絵を描いたところの油分と硝酸が化学反応して脂肪酸になる。
→ さらにこの脂肪酸が石灰石のカルシウムと化学反応して、絵を描いた部分が定着する。
→ 絵が描かれていないところは、アラビアゴムが薄い膜となり石版表面の突起や孔(あな)を被う(おおう)。この皮膜は水を引き付ける親水性。
5) 石版を洗浄する
溶剤で描画部分の油をおとす。
水でアラビアゴムをおとす(皮膜は流されない)。
→ 絵を描いた部分が現れる。
6) インクをつける
水で湿らせた石版の表面に、皮ローラーで油性インクをつける。
→ 絵が描かれているところにはインクがつく。
→ 絵が描かれていないところは親水性の膜におおわれているので油を拒絶しインクがつかない。
7) プレス機で刷る
最近使用される、亜鉛やアルミの金属板では使われる薬品が違う等、
すこし工程が変わりますが、いずれにしてもかなり手間のかかる技法です。
実際にご覧にならないと、理解するのが難しいと思います。
私達は研修のため、都内やパリの工房でリトグラフ制作の工程を見ていますが、
研修前は私も???でした。
次回は贋作(がんさく)についてお話する予定です。
アートギャルリー日本ぶっくあーと、太田でした。
2012.04.27.
アートギャルリー日本ぶっくあーと
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