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2014/07/11 23:32:00|美術館・展覧会のはなし
ミレーの思い出 (3)


アートギャルリー日本ぶっくあーと 見習い14年目のmayumiです。

「生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし−」(7月19日から山梨県立美術館)の非公認PR活動の一環で、リール美術館で見てきた『ついばみ』のことや、私の個人的なミレーの思い出など、3回に渡り強引に書き連ねてきました。

「こぶとりじいさん」とか「スチャラカ社長」とか、もっとまともな話はないのかね、という指摘もありましたので今回はマジメに書きましょう。漢字もたくさん使ってみます。
ミレーとの思い出ばなし最終回、最初で最後のシリアスバージョンです。



時は流れ、1990年代後半、8月。
オルセー美術館でのミレー『晩鐘(ばんしょう)』観覧を人生計画に加えてから6年後のこと。
初のパリ旅行で、原画を見ることができました。

薄暮が迫るバルビゾン。広々とした畑で農民が仕事の手を休めて祈りを捧げる様が描かれている、ミレーの代表作。
「遠くの教会から鐘の音が鳴り響くのが聞こえた、感動に心が震えた」と美辞を並べたいところですが、ちょっと違うできごとがありました。


『晩鐘』を目にしたとき、周囲の音、鑑賞者、展示作品、あるはずの存在を感じなくなりました。無音の世界に『晩鐘』と私。とても静かでした。
そして胸をしめつけられる苦しさに襲われます。

その8ヵ月前、クリスマスを間近に控えた日に、私は身近な人を亡くしていました。
楽観的思考だけが自分のとりえと信じていたのに、気持ちの整理がうまくできず、悲しみは日ごとに強くなるばかり。
当時私は20代前半で、ロンドンに暮らす大学生。お金・経験・智恵はなく、それでもなんとか気を紛らわせようと、思いつくあらゆることを試みました。散歩をし、美術館へ行き、プールで泳ぎ、知っている歌は「ラジオ体操の歌」まで歌い...でも、亡くなるまでの1ヶ月半に襲われた猛烈な不安と恐怖が一瞬でよみがります。

仕方がない、運命だ、時間が解決する、友人たちからのなぐさめを呪文のようにくり返しても、ああすれば良かった、こんなことを言えば良かった、あの時もあの時もまだ遅くなかったと、後悔と自責の日々。夏が来て、住んでいた部屋の契約更新を機に引っ越してからというもの、状態はさらに悪化。「弱い人間は嫌い」と友から毒矢を射られても、応戦はおろか、刺さった矢を抜く力さえなくなっていました。
そんなときの『晩鐘』。


意識を失いそうな息苦しさ、自分の存在すら消えゆく感覚のなか、祈りを捧げる農民たちを前に気付きます。深い悲しみを遠ざけるのに必死で、私は死者の冥福を祈っていなかったと。耳の奥でキーンと鋭く高い音、しばらくして細い糸のように周囲の音が入ってきました。横から見知らぬマダムが話しかけています「気分が悪そうね、大丈夫?」「はい、大丈夫です...」


アスファルトからゆらゆらと立ち昇る熱気、華麗な建物すべてがうっとうしく感じられた夏の午後。美術館を離れてリール通りへ...もう今日は絵を見るのをやめておこう。カフェで炭酸入りオレンジジュースを飲み、落ち着きがもどりました。具合は悪くない、でも何だったんだろう。原因をボンヤリと分析し始めます。
「自分の気持ちが、とても強く絵に投影されてしまったからだ」


のちに、関連書籍や画集・展覧会図録に書かれた解説を読みました。
夕暮れの村に教会の鐘が響くと、「哀れむべき死者たちのために」と祈りを欠かさなかったミレーの祖母、作業の手を中断させてミレーにも祈りの言葉を唱えさせた、その思い出をもとに描かれたこと。
女中奉公していた女性と同棲し次々と子供をもうけたミレーが、厳格なカトリック信者の祖母に会う勇気を持てぬうちに祖母が死去、最愛の人を失った衝撃と後悔、何日も泣き続けた画家が思い出の昇華と鎮魂のために描いたこと。

『晩鐘』に込められた思いとあの時の私の心理状態が少し似ていたのだと感じました。敬虔さあふれる画面に心が大きく反応したのかもしれません。
実際、3年後に再びオルセーで『晩鐘』を見たときも、それ以降の再会でも、同じ現象は二度と起こらず穏やかに鑑賞できています。
画家の魂との共鳴現象のような思い出深いできごとでした。




日本の美術館や特別展には、もちろん作品があるのを知っていて足を運んでいます。でも面白いことに、ミレー作品とはただならぬ縁があるのか、海外の美術館で偶然会うことも多いです。その絵を目当てに訪ねたわけではないのに、館内で通りすがりに「あっ!」。
幼いころから親しんでいたミレーの色彩を無意識にキャッチするようです。
「ミレーおじさん」ゴッホが敬愛を込めてそう呼んでいたようですが、私も「ミレーおじさん、発見!」と、嬉しくなる瞬間です。


美術館、個人コレクション、そして売買される作品などに多く接し、ミレーとの思い出もずいぶん増えました。
「楽しいこと辛いことを経験して、30年後に同じ絵を見たらまた違うかもしれない。フランスにあるミレーの絵を見て、ここのミレーを見たら印象が変わるかもしれない。」
フランス人画家・アンドレ・バルリエ先生に言われたとおり、ミレーや作品に対する私の意識も大きく変わっています。



やっと、これで私の思い出ばなしは終わりです。長らくのおつきあいありがとうございました。



さて今年は、ボストン美術館の『種をまくひと』※1、オルセー美術館の『晩鐘』※2が来日しています。
 
※1:
名古屋ボストン美術館「開館15周年記念ボストン美術館 ミレー展バルビゾン村とフォンテーヌブローの森から」8/31まで。10/17〜東京・三菱一号館美術館へ巡回
 
※2:
六本木・国立新美術館「オルセー美術館展 印象派の誕生 ―描くことの自由―」10/20まで)


そして「生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし」(山梨県立美術館 7/19〜8/31、以降巡回)では約80点ものミレー作品が一堂に会します。

特に山梨県立美術館のおひざもとの山梨県民のみなさま、「生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし」にはぜひ行ってくださいね。
多くの素晴らしい作品を近くで見られるのに、その機会を逃すなんてもったいない!

山梨に暮らしていても「ミレーは見たことないよ」という人、実は多いんです。
「ただの百姓の絵でしょ」と思っている、そこのあなた! 本当にそうなのか、ぜひ美術館でご確認くださいね。


それでは、お好きな一枚に巡り合えることを心よりお祈りしています。







アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目
mayumi

2014.07.11.

 


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〜世界の巨匠と日本画の原画・版画〜
アートギャルリー日本ぶっくあーと

WEBショップもよろしくおねがいします。
http://nihonbookart.com/

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【 生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし− 】

山梨県立美術館: 住所: 〒400-0065 山梨県甲府市貢川1丁目4−27
 電話:055-228-3322

会 期: 2014年7月19日(土)〜8月31日(日)

開館時間:午前9:00〜午後5:00(入館は午後4:30まで)

休館日: 7月22日、28日、8月4日、25日

観覧料: 一般1,000円 大学生500円
      20名以上の団体、 一般840円 大学生420円
     山梨県内ホテル・旅館宿泊者割引料金 一般840円 大学生420円

 ※以下の方は無料です
 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の児童・生徒
  山梨県内在住65歳以上(健康保険証等持参、県外の65歳以上の方は常設展のみ無料)
  障害者手帳をご持参の方はご本人と付き添いの方1名

前売券: 一 般 840円、大学生 420円
 
前売り券の取り扱い
 ・山日YBS本社受付(甲府市北口2丁目)
 ・山日YBS富士吉田総支社(富士吉田市下吉田)
 ・山梨県立美術館

 ・ローソンチケットLoppi(Lコード:34223)
 ・セブン-イレブン チケット(セブンコード:030−526)
 

 


■記念講演会

◇7月19日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
井出洋一郎さん(府中市美術館館長)、ルイーズ・ル・ギャルさん(トマ=アンリ美術館館長)

ミレーを取り巻く環境や風土とのかかわりについての講演とトークセッション

 

◇8月2日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
馬渕明子さん(国立西洋美術館館長)

社会的な背景を踏まえた、絵画における農民像や家族像の需要についての講演

 


■キッズプログラム
 
◇7月30日(土) @10:00〜12:00 小学生対象 A13:30〜15:30  中学生対象

講師 西岡優子さん(アナンダ)

展示作品の説明と羊毛を使った実技
 
定 員 各回30名程度

申し込み期間 7月8日〜7月29日








2014/06/24 16:36:00|美術館・展覧会のはなし
ミレーの思い出 (2)

 

非公認で「生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし−」(7月19日から山梨県立美術館)のPR活動をしている、アートギャルリー日本ぶっくあーと 見習い14年目のmayumiです。

前々回は、ポスターなどで使われている作品『子どもたちに食事を与える女(ついばみ)』の話と展覧会概要。前回からは、ミレーネタのごり押しで、私の思い出ばなしを始めました。そんなの誰が興味を持つんじゃ、という意見は全部スルーして、今回もミレーに関する昔ばなしを続けます。

 

授業で教わったり、テレビの特番で画家の生涯を知ったりすることはあっても、8歳で初めて見た『種をまく人』と『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』の原画の印象のせいか、ムーア『四つに分かれた横たわる人体』へ抱いたような偏愛もなく約10年が経ちました。しかし1990年代はじめ、高校生のとき。フランス人画家アンドレ・バルリエ先生と山梨県立美術館にご一緒したのをきっかけに、少しずつミレー作品への意識が変わり始めます。

 

あ、すみません、「高校生のとき...画家と美術館にご一緒」という表現では不十分でした。エレガントに聞こえて、私を知る人物からヤジられそうですから、本題の前に補足説明しますね。

バルリエ先生は、父(弊社スチャラカ社長)がたずさわっていた巡回展「現代フランス美術展」の招待作家として、たびたび来日。ほがらかでフレンドリーな先生です。


 (画像:バルリエ先生と若かりし頃のスチャラカ社長)


全国各地で長い時間をともに過ごしていたからか、お国ことばの岩手弁しか話せない父となぜか仲良し。甲府では美術展の合間に、先生と奥様を山梨観光にお連れしました。通訳なし、フランス人ふたり&岩手人ひとりの神通力コミュニケーションで、まずは富士五湖エリアの物見遊山。

しかし、自分の本拠地・山梨ということで、ガイド役がヒートアップ。車を運転しながら身振り手振りの熱い語り、つまり「ジェスチャーゲーム」はスリル満点だったとのこと。
 

「言葉は大事」

観光2日目にして気付いたとはいえ、フランス語ペラペラのスタッフは、お気楽な父と違って「おでかけ」するわけにもいかず、「甲府在住、緊急出動可能、先生夫妻と面識あり。しかもバイト代ゼロ円。この際、英語でも良かろう。いないよりマシ」と当時高校生の私をチョイスしたという経緯。
平日の昼まえ、父が学校に電話をして「家庭の事情で」と、常識やぶりの早退命令。
そんなこんなで強制連行されて「画家と美術館にご一緒」しました。

 

「先生に、これから山梨県立美術館に行くって言って。ミレーの『種まく人』『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』があって、ミレーとバルビゾン派のコレクションで有名です。フランスと比べられると困るけど、山梨にも良い作品があるんですよ、って。」

「これから美術館に行きます。ジャン=フランソワ・ミレーのコレクションで有名です。パリのオルセーにもミレーの絵がありますよね 」

 9歳から週1回50分間の英会話教室で金をかけ、高校でもオプショナル早朝授業まで受けていたとは思えない、すこぶる期待外れの英語力。スチャラカな父親DNAを受け継ぐ私に通訳なんてできるわけがない、むしろこれで上出来!
話はとことん自分流にアレンジし、かんたんな質問をしてやりすごすことに。先生はお話し好きなので、私はほとんど聞き役、ときどき質問。もちろん、父への通訳は省略。

 


この作戦は美術館でも続きます。
「これを見るのは4回目です。画家の生涯についても少し学びました。でも良さが分かりません。フランスではミレーやミレーの作品はどう思われているのですか?」と最初に発言。
するとバルリエ先生による「サルにも分かる、ミレー講義」がスタート。

「なにが素晴らしいかと言うと...」
「フランスでは...」

数分で話に飽きた奥様はあっというまに自由行動、後を追った私の父もフラフラと消失。
でも画家のトークは絶好調です。構図の特徴と特長、農民画ジャンルの地位と描くことの意味、ミレーゆかりのフランス北部の風土、そしてバルリエ先生の解釈までのフルコース、まさかの2時間。
たまに意識が遠のきつつも、私はマンツーマンのレクチャーを修了しました。

『種をまく人』にいたっては、遠くに住む親せきよりも頻繁に会っており、画家に対しても「ミレーは山梨県人」とアホな冗談をいうほど身近な存在でしたが、フランス人に解説されたおかげで「ミレーは世界的に有名で美術史上大事な画家」と再認識。

また、4度目の鑑賞が良かったのか、それともバルリエ先生のふわふわしたシャンソン風イングリッシュのおかげか、これまで頭を素通りばかりしていたミレーの知識が、無事に脳内にとどまりました。


「若いうちは分からないことが多い。時間・経験・知識が必要なこともあります。楽しいこと辛いことを経験して、30年後に同じ絵を見たらまた違うかもしれない。フランスにあるミレーの絵を見て、ここのミレーを見たら印象が変わるかもしれない。色々なことを経験して、色々な絵を見なさい。世界中の画家の絵をたくさんたくさん見なさい。」
 

バルリエ・マジックにかかった私は、「とりあえず画集でも見てみようかな」なんて気持ちにもなり、ミレーへの意識が少し変わったのか、パリ・オルセー美術館での『晩鐘』観覧を人生計画に加えることに。
 

そして、その6年後にオルセーを訪問したとき、とても思い出深いできごとがありました。


この続きは、また次回。

 


アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目 
mayumi

2014.06.24.


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〜世界の巨匠と日本画の原画・版画〜
アートギャルリー日本ぶっくあーと

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【 生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし− 】

山梨県立美術館: 住所: 〒400-0065 山梨県甲府市貢川1丁目4−27
 電話:055-228-3322

会 期: 2014年7月19日(土)〜8月31日(日)

開館時間:午前9:00〜午後5:00(入館は午後4:30まで)

休館日: 7月22日、28日、8月4日、25日

観覧料: 一般1,000円 大学生500円
      20名以上の団体、 一般840円 大学生420円
     山梨県内ホテル・旅館宿泊者割引料金 一般840円 大学生420円

 ※以下の方は無料です
 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の児童・生徒
  山梨県内在住65歳以上(健康保険証等持参、県外の65歳以上の方は常設展のみ無料)
  障害者手帳をご持参の方はご本人と付き添いの方1名

前売券: 一 般 840円、大学生 420円
 
前売り券の取り扱い
 ・山日YBS本社受付(甲府市北口2丁目)
 ・山日YBS富士吉田総支社(富士吉田市下吉田)
 ・山梨県立美術館

 ・ローソンチケットLoppi(Lコード:34223)
 ・セブン-イレブン チケット(セブンコード:030−526)
 

 


■記念講演会

◇7月19日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
井出洋一郎さん(府中市美術館館長)、ルイーズ・ル・ギャルさん(トマ=アンリ美術館館長)

ミレーを取り巻く環境や風土とのかかわりについての講演とトークセッション

 

◇8月2日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
馬渕明子さん(国立西洋美術館館長)

社会的な背景を踏まえた、絵画における農民像や家族像の需要についての講演

 


■キッズプログラム
 
◇7月30日(土) @10:00〜12:00 小学生対象 A13:30〜15:30  中学生対象

講師 西岡優子さん(アナンダ)

展示作品の説明と羊毛を使った実技
 
定 員 各回30名程度

申し込み期間 7月8日〜7月29日








2014/06/07 14:51:00|美術館・展覧会のはなし
ミレーの思い出 (1)



こんにちは。
アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目のmayumiです。

前回は、7月から始まる山梨県立美術館の「ミレー展」のお話をしました。
今回は、ミレーに関する私の昔ばなしです。



その画家の名を初めて聞いたのは1970年代後半、私は幼稚園児でした。
78年に山梨県立美術館がオープン。
あの頃、大人たちの話には「みれー たねまくひと」という言葉がひんぱんに出ていました。

「みれーは、ゆうめいな、えかきさん」
「たねまくひとは、そのひとが、かいたの。これだよ。」
家族に教わって以降、ぼうしを目深にかぶって足をクロスさせ、右手でシャーっと種まきするふりをして「みれ―」と言ってみたり、家庭菜園でトウモロコシの種を豪快にまきちらして「たねまくひとごっこ」をしたり。
まだ原画を見る前でしたが、私のような小さな県民にも身近な存在となりました。


小学校1年生のときには、『種をまく人』にインスピレーションを受けた絵を描いたこともあります。先生が読み聞かせる『こぶとりじいさん』のストーリーをもとに、好きな場面を「おえかき」する授業でした。

当時7歳。
チラシ裏や自由帳への制作は思う存分にやっていたものの、「何も見ないで、おはなしの場面を想像して描く」のは難題。とりあえず私は、となりに座る友人「うーさん」と意見をかわし、おじいさんが陽気に踊るシーンを選びました。

しかし、ここで問題が...。
人物画が苦手だったのです。
顔の絵なら「母の日」「父の日」で何度か経験していました。
とはいえ、ここで『こぶとりじいさん』の肖像画は求められていない。

指導者がいないまま、フリースタイルで積み上げた約5年のキャリアでは、躍動感ゼロの、棒立ちした女の子たちを小さく描いてきただけ。
「おどる、じいさん」は未知の領域です。

激しく頭を悩ませた結果、『たねまくひと』を思い出しました。
もちろん『種まく人』は、踊ってるわけでも、じいさんでもありません。
でも、「動きのある男の人」というポイントだけで十分。
画用紙は横に使いましたが、画面いっぱいに主役を配置。
手足に大胆な動きをつけて、踊っている様子も表現。
それまでの、ちまちまとした画風からの脱却です。
まさか「たねまくひとごっご」が、こんな形で実を結ぶとは!
後から知りましたが、この授業は「校内図画大会」。
そしてなんと、40人クラスの中、2名に与えられる金賞を受賞したのです。
ミレー、万歳。



さて、そんな私が山梨県立美術館で初めて本物を目にしたのは8歳のときのこと。
人生初の「名画の原画」。

最初に対面した『種をまく人』は衝撃的でした。
本と全然違う、暗い、暗い、暗い!
そしてもうひとつ、『夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い』。
こちらは少し好印象で、「羊と犬が可愛い」。
でも、「羊飼いがコワイ」。
残念ながら、8歳の時点ではミレーの良さは分かりませんでした。


父(弊社スチャラカ社長)の仕事柄、家には多くの画集がありました。
それらを「絵本」だと勘違いして、もの心ついたころから見ていた私。
年の割には美術に親しんでいたはずでした。
しかし、こどもが好きなのは、明るい色・楽しい雰囲気・かわいい絵。
「すごい」と評価するのは「写真みたい」に描かれた作品。
小学校低学年で、ミレーを理解するのはむずかしいです。


『こぶとりじいさん』の絵で世話になった恩も忘れ、私の興味は別の作品へ。
それは美術館の玄関にあるヘンリー・ムーアの彫刻。
上野の西郷さん(西郷隆盛像)ぐらいしか間近で見たことのなかった私は、初めての「抽象彫刻」に強くひかれ、「これが学校にあったら良かったのに。ドラえもんがいたら頼めるのに。」と叶わぬ夢を描きました。
『四つに分かれた横たわる人体』という邦題の響きも気に入って、後日しばらくのあいだ、白黒資料をコッソリと眺めては、「よっつに、わかれた、よこたわる、じんたい。よっつに、わかれた、よこたわる、じんたい。」とブツブツ言って、タイトルのリズム感にウットリするという異様ぶり。

結局、ミレーへの意識が変わり始めたのは約10年後、高校2年生のときです。
山梨県立美術館のミレー作品、4回目の鑑賞。
フランスの画家アンドレ・バルリエ先生とご一緒したときでした。



この続きはまた次回に。



アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目 
mayumi

2014.06.07.

 

 

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【 生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし− 】

山梨県立美術館: 住所: 〒400-0065 山梨県甲府市貢川1丁目4−27
 電話:055-228-3322

会 期: 2014年7月19日(土)〜8月31日(日)

開館時間:午前9:00〜午後5:00(入館は午後4:30まで)

休館日: 7月22日、28日、8月4日、25日

観覧料: 一般1,000円 大学生500円
      20名以上の団体、 一般840円 大学生420円
     山梨県内ホテル・旅館宿泊者割引料金 一般840円 大学生420円

 ※以下の方は無料です
 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の児童・生徒
  山梨県内在住65歳以上(健康保険証等持参、県外の65歳以上の方は常設展のみ無料)
  障害者手帳をご持参の方はご本人と付き添いの方1名

前売券: 一 般 840円、大学生 420円
 
前売り券の取り扱い
 ・山日YBS本社受付(甲府市北口2丁目)
 ・山日YBS富士吉田総支社(富士吉田市下吉田)
 ・山梨県立美術館

 ・ローソンチケットLoppi(Lコード:34223)
 ・セブン-イレブン チケット(セブンコード:030−526)
 

 


■記念講演会

◇7月19日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
井出洋一郎さん(府中市美術館館長)、ルイーズ・ル・ギャルさん(トマ=アンリ美術館館長)

ミレーを取り巻く環境や風土とのかかわりについての講演とトークセッション

 

◇8月2日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
馬渕明子さん(国立西洋美術館館長)

社会的な背景を踏まえた、絵画における農民像や家族像の需要についての講演

 


■キッズプログラム
 
◇7月30日(土) @10:00〜12:00 小学生対象 A13:30〜15:30  中学生対象

講師 西岡優子さん(アナンダ)

展示作品の説明と羊毛を使った実技
 
定 員 各回30名程度

申し込み期間 7月8日〜7月29日

 

 

 








2014/05/25 11:40:00|美術館・展覧会のはなし
ミレー展 (山梨県立美術館)


こんにちは。
スチャラカ社長にブログ記事を書くようお願いしたらトンズラされました。
というわけで、本日の担当もアートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目のmayumiです。
 

4日前に名古屋へ行きました。ただいま名古屋ボストン美術館では 「開館15周年記念
ボストン美術館 ミレー展バルビゾン村とフォンテーヌブローの森から」開催中。
(8/31まで。10/17〜東京・三菱一号館美術館へ巡回)

「種をまく人」などジャン=フランソワ・ミレーの代表作を中心に、19世紀フランス絵画史に大きな足跡を残した20作家による64作品が展示されています。
 

今日はその「ボストン美術館...」の、ではなく別の「ミレー展」の話。
もうひとつの「種をまく人」を所蔵する山梨県立美術館で開催される特別展
『生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし−』(7/19〜8/31)のお話です。
 

名古屋からムリヤリ話をつなげた感がありますが、それは私が山梨に住んでいるからというわけではなく、お世話になっている山梨県立美術館さんをエコひいきしているからです。


さてさて、県内ではテレビ、新聞、ポスター等で、ひんぱんに告知を見かけるようになりました。
宣伝に使われているのは『子どもたちに食事を与える女(ついばみ)』(La Becquée, 1860年作 キャンバスに油彩)。
上の写真の作品です。所蔵するフランス・リール美術館で今年2月に私が撮影しました。
これが山梨に来るなんて! 感涙にむせびますよ。

横並びに座る3人のこどもたち、母親と思われる女性がボウルを抱え、真ん中の子に柄の長いスプーンで「はい、あ〜ん」と粥らしきものを食べさせています。
タイトルを知らずとも、親ドリがヒナに餌をあたえる「ついばみ」を連想できますよね。
母の慈愛はもちろんですが、こどもたちが身に着けている素朴な帽子も防寒着も靴も、「こっこっこっ」と聞こえてきそうなニワトリたちも、画面奥の隠れキャラ的な父親とおぼしき人物も、この作品の温かさを生み出す要素でしょうね。
『絵は良く分からない』『ミレーには興味ない』という人々すらもトリコにしてしまうような、恐るべき魔性の癒し系? 完全無欠の素朴感?
ずっと見ていたいと思わせる穏やかな絵です。


この作品は2011年にも来日していて、巡回展『印象派の誕生 ミレー、モネ、ルノワール、ゴッホ』(6/5〜7/18 愛媛県立美術館 、7/28〜9/11 沖縄県立博物館・美術館、9/23〜11/6 熊本県立美術館)で展示されました。
実物をご覧になられた方はご周知のことですが、「種をまく人」よりもずっと小さいです。

 

 

 

広告で大きく扱われていると実物も大きいと勘違いしてしまう可能性が高いのでお知らせしておきましょう、
資料によると、画面サイズ(額を含まない)が山梨の「種をまく人」99.7×80cm(40号)、「ついばみ」74.×60p(20号)ですから「ポーリーヌ・V・オノの肖像」73×63pに近いサイズですね。
 

『生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし−』では国内外のミレー作品約80点が紹介されます。素晴らしい!
関連イベントとして7/19、8/2は記念講演会が開催されるとのこと。
そして7/30はキッズ・プログラムもあるようです(要申込)。
展示作品の説明と羊毛を使った実技だそうですが、とっても楽しそう。夏休みの自由研究になるかもしれませんね。

私が初めてミレーの原画を見たのも小学校低学年の時。
今から30年ほど前、もちろん山梨県立美術館の「種をまく人」と「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」でした。
その時の印象は...と、私の話はどっちでもいいのですが、『生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし−』開催まで時間がありますから、ミレー関連のネタで強引につなげます。

この続きはまた次回に。



アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目 
mayumi

2014.05.25.

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【 生誕200年 ミレー展 −愛しきものたちへのまなざし− 】

山梨県立美術館: 住所: 〒400-0065 山梨県甲府市貢川1丁目4−27
 電話:055-228-3322

会 期: 2014年7月19日(土)〜8月31日(日)

開館時間:午前9:00〜午後5:00(入館は午後4:30まで)

休館日: 7月22日、28日、8月4日、25日

観覧料: 一般1,000円 大学生500円
      20名以上の団体、 一般840円 大学生420円
     山梨県内ホテル・旅館宿泊者割引料金 一般840円 大学生420円

 ※以下の方は無料です
 小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の児童・生徒
  山梨県内在住65歳以上(健康保険証等持参、県外の65歳以上の方は常設展のみ無料)
  障害者手帳をご持参の方はご本人と付き添いの方1名

前売券: 一 般 840円、大学生 420円
 
前売り券の取り扱い
 ・山日YBS本社受付(甲府市北口2丁目)
 ・山日YBS富士吉田総支社(富士吉田市下吉田)
 ・山梨県立美術館

 ・ローソンチケットLoppi(Lコード:34223)
 ・セブン-イレブン チケット(セブンコード:030−526)
 

 


■記念講演会

◇7月19日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
井出洋一郎さん(府中市美術館館長)、ルイーズ・ル・ギャルさん(トマ=アンリ美術館館長)

ミレーを取り巻く環境や風土とのかかわりについての講演とトークセッション

 

◇8月2日(土)午後2時〜、総合実習室、聴講無料

講師
馬渕明子さん(国立西洋美術館館長)

社会的な背景を踏まえた、絵画における農民像や家族像の需要についての講演

 


■キッズプログラム
 
◇7月30日(土) @10:00〜12:00 小学生対象 A13:30〜15:30  中学生対象

講師 西岡優子さん(アナンダ)

展示作品の説明と羊毛を使った実技
 
定 員 各回30名程度

申し込み期間 7月8日〜7月29日

 

 

 

 

 








2014/05/14 16:49:00|色々なアート
手塚治虫×石ノ森章太郎  マンガのちから




こんにちは。
アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目のmayumiです。
本日は当ギャラリーのスチャラカ社長が不在のため、実に仕事がはかどりまして
ブログを書く時間ができました。

さて今回は、山梨県立博物館で開催されている
「特別展 手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」のお話。
いよいよ会期も終盤(5月19日(月)まで)です。
この展覧会は東京現代美術館、広島県立歴史博物館、大阪歴史博物館、
そして山梨県立博物館と巡ってきた巡回展。
すでにご覧になられた方もたくさんいらっしゃることでしょう。

マンガの神様・手塚治虫先生、そしてマンガの王様・石ノ森章太郎先生。
生原稿や貴重な資料ほか、両先生が下宿されていた「トキワ荘」の再現展示、
著名な先生方によるファン垂涎のオマージュ作品など見ごたえある展示内容です。

お二人の作品で育った世代のみなさまはもちろんですが、
「美術館や博物館に行ったことがない」という方々も楽しめると思います。
まだご覧になられていない方は足を運ばれて「展覧会っておもしろいな」と発見されると良いですね。


ちなみに最も私の琴線に触れたものの一つは石ノ森先生の直筆イラスト。
手塚作品「ジャングル大帝」の模写です。
石ノ森先生が創刊した同人誌「墨汁一滴」掲載作品とのことですが、
色遣いの美しさはもちろんのこと、
ショウペンハウエル(ショウペンハウアー、ドイツの哲学者)の言葉とともに絵の周りにビッシリと書かれた文章も印象的でした。


再現された石ノ森先生の部屋には、たくさんのレコードがありました。
床にはハードカバーの本が積み上げられ、一番上に「ルノアール」の画集。
「ヘレニズム」というタイトルも見えました。
漫画同人誌に正岡子規の随筆「墨汁一滴」というタイトルをつけてしまう“マンガの王様”、
その“マンガの王様のちから”となっていたのは文学、音楽、哲学、美術、だったのでしょうね。


そして、最も衝撃的だったのはトキワ荘住人の集合写真。
若かりし頃の赤塚不二夫先生が、まさかの男前で驚きました。はは。




アートギャルリー日本ぶっくあーと、見習い14年目
mayumi

2014.05.14.


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当ギャラリーにて石ノ森章太郎(エステート) サイボーグ009 の版画を展示中。
販売もしています。
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