1960年代の終わりごろ、甲府にデイトナというジャズ喫茶があった。
地元のラジオで久しぶりに旧オーナーの声を聴いて聞いて、当時のことをまざまざと思い出した。
旧桜町のケーキ屋早川ベーカリーの横の、路地とも隙間ともつかぬところを野良猫のようにくぐると、デイトナへ昇り口だった。
公園にあるような、田舎の駅舎のような堅いベンチだった。
総体として、当時「バラック」と言われた建物の印象があった。
が、レコードのコレクションと再生装置の音質は有名だった。
貧乏学生だった私などは、おずおずとこの空間に交じって煙草を練習した。
「水割りください」
「何にする?」
「えーと、ホワイト」
サントリーのホワイトである。
これでも大変な贅沢だ。
普段はレッドしか呑んでいないのだから。
これで2時間ほどを潰す。
リクエストも聞いてくれたが、暗がりのどこかから「チッ」という舌打ちのする排他的な(特権的というか)ムードもあった。
コルトレーンの「至上の愛」をリクエストして舌打ちされるとは、一体どうすればいいのか?
それともお前が、ここでリクエストするな、とでも言いたげだった。
ひたすらジャズ誌「スイングジャーナル」を読んで、分かったような分からぬような観念的な議論を延々としている輩もいた。
たまにはライブもあったが、おそらくチャージが払えなかったのか、自分が聴いた覚えは殆どない。
それとも怯んでいたのか?
元来、狭い店内に客数も限られていたようにも思う。
ラジオで聞いたオーナーの話では、甲府はキャバレー隆盛期で、仕事開けのバンドマンが集って、興が乗れば即興演奏が始まり、夜が明けた、というようなこともあったらしい。
ああ、甲府の佳き時代!!
その後給料取りになって、自分のプレーヤーもささやかなステレオに替り、レコードも一枚、また一枚と買ってゆくようになり、やがてCDになり、あの空気に抵抗するのもますますしんどくなって、自分も足が遠のいた。
デイトナが閉まったこと、いつか
アローンという後継の店ができたことも知っていた。
オーナーが一緒なんだか替ったんだかははっきりとは知らなかった。
しかし、饅頭の黒玉の沢田屋本店の横を通る時はいつもいつも気になっていた。
ラジオでオーナーが同一人だったことも知った。
高級どころでムーラン、赤と黒、庶民的なカサブランカ、新しいところで美美(みみ)……隆盛を極めていた甲府裏春日のグランドキャバレーは次々に閉まっていった。
なんとかハワイというような安パブが何箇所か流行るようになって、サラリーマンは安っぽい遊びに流れた。
キャバレー遊びを教わり始めた自分たちも刹那的になっていった。
抱えられて(?)いたバンドマン、ピアニスト、ボーカリスト、ダンサーも何処かへさすらって行ってしまった。
雰囲気があの頃と変わっていなければ怯むし、軽くなっていれば極めて残念だし、久しぶりに覗いてみたくなった。
2013.10.19(先週だが)
【KOFU JAZZ STREET2013】
アローン
川嶋哲郎(ts) 田窪寛之(p)
安田幸司(b) 長谷川ガク(ds)
【桜座】TOKU
【コットンクラブ】ジャネット・サイデルトリオ
【アルフィー】The Garzonians(古谷淳クインテット)