新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
2013/12/03 14:18:02|樋口一葉
一葉の若尾逸平
半井桃水の指導を受けながら小説を作ろうと悪戦苦闘していた樋口一葉の随筆(ネタ帳とも思えるが)に、甲州財閥の雄・若尾逸平の30歳のエピソードの記述がある。

逸平は山梨の「いとかすかなる商人」だったが、「土地にも暮らしわびて」江戸で「なりはひの途もとめん」とて、上京しようとした際のこと。
一泊した八王子で、夜中に目覚めて隣室の二人の話を聞く。
「この頃横浜の沖に外国船多く来てこの国の物産をあがなひゆくといふ 水晶などは殊に高価」だから、
明日は甲州に行って、安く買占めよう、と。
翌朝、隣室の二人は深酒をして寝坊をし、若尾は未明に出発して、甲府に着いた。
水晶の専門の人々を説き歩いて、全て自分に売る約束を取り付けた。
他県の二人が入県した時には「塵ばかり」も残っていなかった。
値を問わないと説得して、三つある水晶山のうちの一山をようやく手に入れた。
その後、若尾はやることなすこと順調に行って、「去年」国会開設にあたり、山梨の多額納税議員として貴族院議員になっていた。
横浜若尾銀行、東京馬車鉄道会社、東京電灯会社等々。
「森のした艸一」所収。
馬場孤蝶や新世社版全集は随筆扱い、筑摩の全集では日記扱いである。

一葉が何のためにこれを書きつけたか、国会開設の歳の感懐か、小説のネタとしてか。
書きぶりには説話のような、落語の枕のようないい味がある。
ネタだとすれば、小説は世俗のネタを拾って話に仕立てるという「かわら版」的な作法が彼女にはまだ残っていた。
そしてこれは、師匠半井桃水が大阪の朝日新聞で行っていたことである。
一葉との会話で、桃水は自分の作風を「こんなものしか世に容れられない」と、自虐的に語っている。
『たけくらべ』も『にごりえ』『わかれ道』、一葉の代表作は、実際はこの手法を昇華させたものである。
町の人々の喧騒と会話、噂、スキャンダル……これがその小説の骨格であり、重要なファクターである。
眼で読んで分かりづらく、耳で聞いたら分かりいいのもそのせいだ。

写真:秋の瑞垣山麓。







2013/12/01 10:27:13|その他
めいど・いん・じごく
おそらくこういうことになってしまうだろうという事態が、予測を超えた規模と速度で進んでいる。
震災復興の遅れ、原発、税金、TPP、ワイロめいた献金、中韓との関係、医療・福祉の体制悪化、教育制度いじり、秘密保護法……。
委員会や議会でやっていることも、打ち合わせ済みの茶番のような印象がある。

それにしても不思議なのは、これだけ好き勝手にいたぶられて、一揆も反乱も起きない国民性とはどういうものか?
無関心か、諦めか? そもそも従順か。
大災厄などあった際に、日本人は「我慢強い」とか、理性的な行動とかおだてられ、「あたぼうよ、そんじょそこらとは違うんだ」などと、自己満足とも、愚痴ともおしゃべりともつかないマゾヒスティックな発言のちらほら。

もはや酒場の隅やブログでオダあげているときじゃないかもしれない。
言動は既に監視されているだろうし、記録取られて、あげてしまう「その時」を待っているかもしれない。
遠くない過去に肌身に感じた国家の体制は今もあるだろうし、さらに強化されていくに違いない。

「俺ァ、やだね」と町を離れ、人から離れ、ますます殆どの人々が個人主義に徹底してしまうのではないか。
メディアは既にその風潮を煽っているし。

小さいことでも、自ら判断せねばならない。
小さくても、不服従ならそうと示す具体的な行動をせねばならない。
この世の常で、必ず「倍々返し」されるだろうけれど。

ブログの時評的内容がいつまでもつか。







2013/11/29 15:56:15|本・読書・図書館
加藤正明著『闘茶−私本珠光記』
加藤先生からかねがねそのテーマについて、話をうかがっていた。
茶道の祖・珠光である。
いよいよ小説として完成、刊行され、お恵みいただいた。
資料が極めてすくないこの人物について、加藤氏の想像力がどう羽ばたき、同時代人を編み込んで、どう世界を作り上げるか。
これから読ませていただくのが、本心から楽しみである。
網野善彦の遠望していたところに小説的世界はなかったか?
三好行雄が一冊の詩集を持ちたかったように。
読前の期待感から、そんなことさえ頭をかすめる。

山梨ふるさと文庫、1500円







2013/11/28 14:40:19|アート
シネマミーテイングKOFU
山梨出身の最若手(おそらく)映画監督・中島良と、同じく山梨出身の若手作家で脚本家・都築隆広による映画会+ワークショップが持たれる。
中島良作品:「俺たちの世界」「RISE UP」「スイッチをおすとき」「静かな人」

両氏は雑誌「猫町文庫」にも参加していただいている。
中島氏は第2集に「映画『俺たちの世界』以前・以後」を発表。
都築氏は第3集に「S・E・Xの家」、第4集に「赤羽物語・上」を発表。

「エンジン01」の百名以上の講師・講演、お祭り騒ぎもいいが結局、一過性のイベントだ。
厄地蔵祭りの蛇女みたいなものだ。
地域に定着はしない。
中島、都築、こういう世代が素材にも酵素にもなってほしいものである。
支持してあげたい。

上映映画:「ウミスズめし」30分 ショートフィルム
トーク:中島良、都築隆広

2013年12月7日(土)13:30−
県立図書館 多目的ホール
参加費 500円(図書館で買える)

 







2013/11/23 15:32:50|樋口一葉
荻原留則氏近著の届いた日
荻原留則さんから『続・続 樋口一葉と甲州』をいただく。
一葉について、前作以後新聞その他に書かれた文章を集めてある。
冒頭、拙文「『たけくらべ』発見の記」も収録していただいて恐縮した。

荻原さんは「あとがき」に書かれている。

年が明けて二月二日の誕生日には百歳を迎えると思えば、何かせきたてられるような気分になり俄かに身辺の整理を始めると、樋口一葉について書いた反古紙が机辺に散っているのが目立ってきた……

つい先日エッセイ集『続観山居雑録』を自費出版、お恵みいただいたばかりである。
白寿を迎えて、この知力・筆力には敬服である。
さらに、同郷人としての思いも込めて、一葉への関心の持続にも驚かされる。

御著が手元に到着した今日11月23日は、奇しくも一葉がわずかに24歳6カ月でこの世を去った118年目の命日だった。

小金井喜美子、若松賤子等々、女性文学隆盛だった明治20年代から生き残っている作家は、ただ一葉のみである。
外は皆学問のある、一流婦人ないしは一流人の妻の地位にあった女性たちばかりである。

連載完結している一葉日記の口語訳の確かめを進めよう。