昔は、あちらこちらにむじなの化身が出没したようでございます。
精進湖に近い青木が原の樹海にもよく現れたそうです。
荷駄を運ぶある馬方は子煩悩で、帰りにはかならず子どもの土産を買って戻ってきました。 子どももそれが楽しみで、青木が原の入口まで迎えに出るのが習慣になっておりました。 そこから父親は子どもを馬の背に乗せててくてくと家路をたどったのでございます。 ところが、家につくやいなや、馬の背の子どもが古むじなに変じてげらげら馬方をあざけったかと思うと疾風のように樹海の中に姿を消すことも再三あったと申します。
ある初冬のこと、馬方が帰って参りますと青木が原のところに子どもが待っていて、
「おとー」
と声をかけました。 馬方は、
「こんねに寒い夕方、女房が坊主を表に立たせておくわきゃねえら。また、むじなの野郎がおれをからかおうと思って出たずら。今日こそしょうづけてくれる」
と思い、素知らぬ顔で馬の背に乗せました。けれども、
「落ちるといけん」
といって、子どもを荒縄で鞍にしっかり結わえ付けたそうでございます。 やがて、子どもは、
「おとー、しょんべんがしてーよー」
と何度も言うのですが、父親は、
「もうすぐ家じゃんか。我慢しろ」
と言うばかりでした。とうとう子どもは馬の背で小便を漏らしてしまいました。
家に帰って、着物を濡らしている子どもに、馬方は、
「しょうねえ奴だ。風邪をひくといけねーから、暖めてやるべえ」
と縄で縛ったまんまいろりの火の中へ子どもを座らせてしまいました。 けれども、子どもは古むじなにもどりもせず熱がるばかりでした。
女房が気付いて、
「あんた、なにょー馬鹿なこんをやってるでえー」
といろりから助けだしましたが、子どもの大事なところが大やけどを負ってしまったということです。(南都留郡)
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