上の写真は、秋田県仙北市にある、 田沢湖のほとりに立つ、「辰子像」と、云います。
田沢湖と云えば、 かつてこの湖の固有種であった「クニマス」の事、 あなたは、ご存じでしょうか?
このクニマスが、田沢湖にもたらされた伝説として、 写真の『辰子伝説』が、伝えられて来たのです。 クニマスには、別名と云うか俗称があります。
その名は『キノシリマス』です。 キノシリは東北地方の方言で、 薪の燃え残り(木の尻)の、事だそうです。 魚体が黒くくすんだ魚影は、 昔の人の目には燃え残った黒い木の尻にしか、 見えなかったのでしょう。
このキノシリマス誕生の逸話が、 辰子伝説に込められているのです。
辰子は絶世の美女で、その美しさを永遠に保ちたいと、 神に願掛けします。そして、北へ行けば、 美しさを保てる水が湧く泉があるとのお告げを受けます。
お告げを受けた辰子は、その泉を探す旅に出るのですが、 途中の川で黒い魚影を見つけ、それを焼いて食べました。 その魚はこれまで食べたことの無いくらい美味しく、 何本も食べました。やがて、喉の渇きを覚えた辰子は、 綺麗な湧き水を見つけ、その水を口にします。 しかし、飲んでも飲んでも渇きは潤う事がなく、 そして辰子は、いつしか「龍」に変わってしまうのです。
その泉が田沢湖であり、 辰子が食べた魚がクニマスでした。 龍になった辰子に投げた松明が、 黒い魚体になって泳いだと、伝えられているのです。
以降、辰子は田沢湖の龍神様として祀られます。
その伝説を語り継いでいくために立てられたのが、 写真の辰子像であり、辰子観音と云う観音像もあるそうです。
さて、かつての田沢湖は、 電源開発開発と農地開拓開と云う、 表向きには、国策―。と、された開発により、 上流にある玉川温泉から湧き出る、 強酸性の毒水が引かれる事となり、 棲息していた生きもの殆どが、死滅してしまいました。 1940年、昭和15年の事です。
現在であれば、当然反対運動やデモが起こり、 政策を阻止する事も可能だったかもしれません。 しかし当時は、太平洋戦争に向かう中で、 電源を確保する事業を阻止するなどは非国民とされ、 下手をすれば逮捕される恐れもある中で、 地域地域住民は、受け入れるしか術がなかったのでしょう。
そして、住民が最も守りたかったのは、 田沢湖にしか棲まず、地域の宝であった、 キノシリマス(クニマス)だったとされています。 そのキノシリマスも、国策の結果、 『絶滅』の、運命を迎えてしまった訳です。
クニマスは滋味に溢れ、妊産婦や病後の滋養には、 うってつけの食材で、高価であったそうです。 その貴重な魚を何としても守り抜くため、 当時の方が、ある秘策を思いつきます。
それは、クニマスが生き残れる可能性がある、 国内の候補地に、受精卵・発眼卵を移植し、 子孫を残すと云う試みでした。
明日は、クニマスの避難先として、 絶滅から脱するまでのお話しを書いてみたいと思います。
上手く書けるか心配ですが、 知り得る知識を総動員して、お伝えしたいと思っています。 |