5か月も入院した結果、数々の後遺症があってショッキングだった。今でもその名残は少なくない。 この間、ほとんど寝たきりだったから、筋肉が萎えてしまって歩けなく、いや、自分の足で立てなくなったこともびっくりした。
口の中の唾液が出なくなったのにも驚いた。 1か月は点滴、続く2か月は流動食、つづいて病院食だが、殆ど1割ものどを通らないという有様だった。 結果として、20キロ近く痩せ、口の中の何箇所かにある唾液腺がストップしてしまった。 口腔外科の医師によれが、 「完全復旧は無理かも知れんね」 とう。 けれども、食いしん坊の本性にたがわず、退院してみたら、猛然と私の食欲がわいてきた。 ただし、味覚が変わったようでもあり、かつてうまいと感じたB級の食物の殆どがくどかったり、出汁が効いていなかったり、粉っぽかったりして、どうにも食べられなくなった。 「目」は食べたがるのだが、食べてみるとたいていがっかりする。 私はいくつかの「名店」と思っていて店をリストから抹消した。
それに、だ液不足のせいだろう、固形物を食べるのに、水分がむやみにいる。つまり、味を見た後で、のどの奥へ、流し込まねばならないという訳だ。体重を増やしてはいけない腎臓病患者にとってジレンマである。とは言え、「体力回復のため、食うことは差し支えないし、食うべきだ」などと、医師は矛盾したことを言う。
そんな今の私にとって、美味い茶漬けなど大歓迎である。 そこで全国各地の漬物だとか、保存食だとかを取り寄せては、「お茶漬けさらさら」とやって悦に入っている。むくつけき男の茶漬けだから「お茶漬けZ−クザク」かもしれない。
ここに紹介するのは若狭小浜の笹漬を用いた茶漬け。 小鯛、キス、アジの甘酢漬の三種を飯にのっけて、海苔をもんでかけていい醤油をひとたらし。それに緑茶をかけてザクザク。 塩辛からず、すっぱからず、生臭からず、笹漬からシトシトとお出汁が出て、食べたことのないうまさ。
こういう楽しみも発見したが、ま、本当は、肉の塊でも、揚げものでも、おむすびでもむしゃぶりつけることがさらに願わしいのである。 |