このごろはホテルの習わしが広がってきて、浴用タオルはホテルの中だけで使って、持ち帰りができないところも増えた。 部屋に備え付けてあるか、大浴場の更衣室にうずたかく積み上げてあって、「何枚でもお使いください、ただし、持っては行かないでね」というところもある。
この場合、フェイス・タオルもバスタオルも厚手のしっかりしたものが多い。
けれども、旅館や旅館の雰囲気を残したホテルでは、今でも名前を刷り込んだタオルをくれるところが多い。 大浴場に行くにも「クローゼットのタオルをお持ちください」となっていて、これももらって帰ることができる。
この場合、僅かな例外を除いて、たいてい向こうが透けるほどぺらぺらに薄く、その耳にペッタリ旅館の名や電話番号が刷り込んである。
こういう薄っぺらで貧弱なタオルだから、別にほしいわけではない。 いや、薄っぺらなタオルの方がかさばらないし、水分を吸収しやすいし、しっかり絞れるし、使いやすいのだというはなしもある。 が、タオルというのは使い捨てではない。 家に持って帰ると、洗濯しながらある期間は使う。 よほど潔癖な人なら、名入りは台所か雑巾で、無地のみ浴場で使うとか分類している人もいるかも知れないが……。 たいていはタオル棚あたりに何十枚か積んであって順に使っていくというのが多いんじゃないだろうか。
するとどういうことが起きるか。 湯船にウウウとうなりながらつかって、家庭風呂だから湯船につけても誰も文句を言う者はいない、ぱっと広げて顔なんぞゴシゴシやろうとする。 と、目に入る。 「○○温泉郷△△亭□□」の名。 一瞬手が止まる。確かに行ったぞ。 んんんん、いつだったか。 旅懐とでもいうべき感情が、その瞬間、脳裏をかすめるのである。(福岡哲司) 写真:西山温泉(山梨県中巨摩郡早川町)
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