「猫町」に出稿を予定している人から、のたうちまわっている苦吟ぶりの伝わってくるメールをもらう。
締め切り?
それもあることはあるが、造ることについては、相手がのたうちまわっているのだから、時間も金銭も体裁も言ってはいけないという厳粛な気持ちもある。
温かいが風の強い日。
青空を見上げながらバーバラ・ポニーの透き通ったソプラノでシューベルトやバッハを聴いて、また、「ミニヨン」を引用したくなった。
低い声で朗読したくなった。
ああ、セビージャのアルカサルのパティオよ!
「あこがれを知る人だけが……」
ちょっと気障か。
ミニヨンの歌 ゲーテ(新声社/森鷗外訳)
其 一
レモンの木は花さきくらき林の中に
こがね色したる柑子〔かうじ〕は枝もたわゝにみのり
青く晴れし空よりしづやかに風吹き
ミルテの木はしづかにラウレルの木は高く
くもにそびえて立てる国をしるやかなたへ
君と共にゆかまし
其 二
高きはしらの上にやすくすわれる屋根は
そらたかくそばだちひろき間もせまき間も
皆ひかりかゞやきて人かたしたる石は
ゑみつゝおのれを見てあないとほしき子よと
なぐさむるなつかしき家をしるやかなたへ
君と共にゆかまし
其 三
立ちわたる霧のうちに驢馬は道をたづねて
いなゝきつゝさまよひひろきほらの中には
いと年経たる竜の所えがほにすまひ
岩より岩をつたひしら波のゆきかへる
かのなつかしき山の道をしるやかなたへ
君と共にゆかまし
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