この時季、しばらく前の普通科高校では、三学年の担任が手分けで生徒の受験の「激励」のために現地に行ったことを思い出す。 私大でも国公立大でも(当時の)、学年の子どもの受験者の多い大学学部の受験日に合わせて出かけるのである。
自分のクラスの受験数の多さにもよるが、行く先はある程度希望が効いた。 東京都内、東京近郊、筑波、仙台……と迷った挙句、私はたいてい(三学年になる度)金沢を希望することが多かった。
金沢でも文系学部と理系学部とでは受験キャンパスが違う。 文系の学部が多い自分のクラスは、夜のうちに喫茶店に集めてレモンスカッシュでも飲ませて「がんばれ! やればできる」「乾燥しすぎても駄目だから、ホテルのバスはお湯を張っとくように」みたいな激励や指示をする。 翌朝は、雪の舞い散る医学部キャンパスの入り口にたって、入場する理系クラスの学年の子どもを迎えた。 市内で買い求めた「勝栗」をひとつかみずつ渡しながら。「落ち着けよ!」と。
東京の私大などは何十人から百人も受けるし、道路が真っ黒になるほど受験生数も膨大だから、学年の子どもに遭遇できれば僥倖というほかなかった。
子どもたちが受験場に入ってしまえば、自分の用たしをしたり、軽く一杯やったりした。
こういう激励に効果があったかなかったか判然とはしない。 しかし、何といっても田舎から各地に受験に行く子どもたちである。 激励する側の自己満足かもしれないが、彼らが少しは孤独感を低減して、実力を出してくれればというロウバシンだけだった。
後々社会人となった生徒から、あの時の「勝栗のおかげ」みたいなことを言われると、「あの後、兼六園に行って、近江町市場で土産を買って、駅地下で煙の出ない焼肉?を食べて帰った」なんて言い出せもせず、目を白黒させていた。 遠方の受験地へ教員が出かけてゆく「激励」は10年ほど前からなくなった。 色々な意味で「余裕」がなくなったこともある。
しかし、センター試験の会場入り口の幟旗とか、チョコレート配りや降雪で遅刻寸前の受験生の光景などを報道で見るたびに、ハラハラして、今でも人情は変わらないなと思う。 受験態勢の中にも、当然、微笑ましい師弟関係は今も昔もあるだろう。 そこでは体罰は、まず、聞いたことがない。 少なくとも周りでは。 いや、正座ぐらいは、させたかもしれない。 |