新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
2012/12/08 16:12:14|病を飼いならす
はっきりしているうちに

今週末は親戚の法事と雑誌「猫町文庫」の編集で終わる。


法事は親の代理の意味合いが強い。親が90前後になると、こういう代役もわりにある。


先日「猫町」第4号の内容告知をしたが、偶然にも、、小説3本が高齢者に触れている。社会的にも、それぞれの個々の家庭的にも、高齢者の心身の衰えとそれにどう対応するかの問題は大きな課題だ。遠からぬ先の我が身の問題でもある。


自分の神経がおかしくなる前に、いかに日常を整理し、為すべきことに優先順位をつけておくか……入院中、思い知ったことだったが、常に思い出しておかねばいけない。


宮本武蔵が「我事において後悔せず」と言ったというのを聞いて、以前は、なんて傲慢で嫌な奴だと思ったが、実は、常に己の心身の終末を覚悟していた台詞なのかもしれない。


ものを書くのも、ブログを書くのも、雑誌をやるのも、人との約束も……頭がはっきりしているうちにめどを立てておかねばならなければ、罪作りだ。今本当にはっきりしているのかと念を押されると困るが。


実年齢ではなくて、神経・感性が惚けてしまって、当人がごうも気付いていない、家族も放っておくというような事態がいろんなところにあるように見える。なんか情けなくみじめである。


やがては己もそのように見られるのだろう。どこで自分の中の何から切り捨ててゆくか、気をつけなければ。さもなければ、みっともなさもへっちゃらで通して行くかだが、お他人様に迷惑をかけたり、うざったい思いをなるべくさせたくはない。


写真:扇状地の中腹は地中に水が多い。もう、霜柱が立っている。








2012/12/08 16:01:10|艶笑譚・日本
熊の皮

 年始に八兵衛がやってきた。



「八兵衛でございます。それにしても強い寒のうちでございます。どなた様もご機嫌よろしく、おめでとう存じます」



ふと、かたわらの敷物を手で撫でて



「これは結構なものですね。なんと申すものでごさいますか?」



と訊(たず)ねる。



だんな「これは熊の皮の敷物さ」
八兵衛「これが、熊の皮でございますか」



と言いながら、再び撫でて



「失礼ながら、うちの嬶(かかあ)も、皆様によろしくと申しました」

江戸小咄『雨夜友(あまよのとも)』・拙訳








2012/12/07 7:27:51|本・読書・図書館
「ようこそ、”ローラ物語”の世界へ!」パネル展

山梨県立図書館で新館オープン記念企画として、「ようこそ、”ローラ物語”の世界へ!」のパネル展をやっている。主催がNPO法人山梨子ども図書館、後援が図書館だ。NPOとローラ・インンガルス・ワイルダーを中心とする翻訳者谷口由美子氏との意思が一致しての開催。


刊本はローラ物語の原書旧版から新版まで、訳書では日本でも爆発的な人気の出た岩波書店版、福音館版と充実している。ほかにもローラ・インガルスの肉筆書簡やら、ローラ家の食器類など、とても興味深い。


パネルも銀座の教文館書店での展示で使ったものを再利用していて、とても分かり良い、充実した内容だった。願わくば、このパネルの内容の資料プリントが欲しかった。また、展示資料の一覧もあれば、ローラの研究科家には大いに役立つだろう。


山梨子ども図書館の人々は駐車料など手弁当で毎日詰めているようだ。パーティションの不足やワイヤー展示ができないことなど、不便な点はいくつかあるが、図書館の交流スペースはこういう企画にこそ活用されるべきだろう。とても時宜にかなった、また、内容の濃い、いい企画だと感じた。


パネル展は12月8日(土)まで


左に引用したように、最終日には谷口由美子氏の講演会とコンサートがある。








2012/12/06 9:22:17|雑誌「猫町文庫」
「猫町文庫」第4号掲載予定作品

編集中の雑誌「猫町文庫」第4号に収録予定の作品をお知らせしたい。ご期待いただきたい。


作品数はたくさんではないし、肩書で物を書くわけではないが、大学の名誉教授、作家、劇作家、大学教授、大学講師、研究者、元編集者……による、どれもこれも個性的な読みごたえのある作品ばかりだと思う。大事に編集してゆかなければならない。


作品応募したい方は、規定に従い編集所にお送りいただきたい。編集同人で拝読させていただく。



(小説)
水木 亮  牡丹雪の午後
和田ゆりえ 闇の中の魚
都築隆広  赤羽物語(上)

(評論)
内田道雄  名取春仙と夏目漱石
磯部 敦  テクストを読むということ―内田百閧フ二つのテクストから―
福岡哲司  深沢七郎『甲州子守唄』について

(翻訳)
ミハイル・ブルガーコフ 巨匠とマルガリータ 第2章「ポンチィ・ピラト」(擬古文試訳・解説 石原公道)

石川 博  生の魅力(3)
澤田精一  カフカ再読

(資料紹介)
浅川伯教  李朝陶器の価値及び変遷に就て 注・解説 飯野正仁
中村星湖  あらくれ−徳田秋聲− 注・解説 福岡哲司 ●

(書評)
和田ゆりえ

ほか

ほかにご執筆予定の方々
(小説)
三神 弘
(エッセイ)
相川達也
ほか








2012/12/06 9:21:50|艶笑譚・世界
穴をあけた板ごしにやらかした修道僧のこと

ピチェンティノに、ジェンと呼ぶ町がある。
この町のルポという修道僧が、或る若い処女に惚(ほ)れて熱烈につけ廻していたので、彼女はとうとう折れた。
けれどもあまり痛くはあるまいかと恐れて、なおためらっていた。



それを見て修道僧は、その間から失を射るあの銃眼みたいに、穴を一つあけた板を二人のあいだにおくからといった。
そこで、まん中に穴をあけた非常に薄い樅(もみ)の板を手に入れて、僧はひそかに娘に逢いにやって来た。



きものをぬいで、彼はえもいわれね御馳走にありつこうとしたが、その時までまだ眠っていた兄弟のプリヤプ(男根)は、娘の体内から発射する妙なるもののためにやがて眼をさました。
板の穴から鼻を出して、プリヤプは頭をもたげ、今は堂々たるものとなったので、狭い穴の中で咽喉をしめられたようになり、ひどく痛い目に合わずには進むことも退くこともできなくなった。
期待していた楽しみは苦痛と変わり、修道僧は苦しさと痛さにうめいたり叫んだりした。
娘はそれを見て、男の痛みを和らげてやろうと、接吻したりその他ありとあらゆる方法を講じてみるのであつたが、拷問(ごうもん)を受けるような男の苦しみは却ってつのるぱかり。
気の毒な男は、十字架につけられた人のように苦しみもがき、冷い水を求めてほっとひと息つごうと思った。
娘は、家人の眼をおそれて、水をもらいにゆく勇気がなかった。けれども男の叫びと苦しみもがく様とに心を動かされて、娘はとうとう決心し、プリヤプにたっぷり水をかけてやることができた。
すると充血が消えて、プリヤプは少しずつノルマルな状態に返った。
修道僧は、家の中に人声がしたし、この場を見つけられたくはなかったので、兄弟プリヤプの頭を板の穴から引き抜いたが、プリヤプはかすり傷だらけであった。



修道院に戻ると、僧は医者に手当をしてもらわなければならなかった、こうしておのずと事件は人々の耳に伝わっていった。



もし誰でもがその悪行をこれほど高くつぐなわせられるのであったら、多くの人々はいかにもっと慾望を節するであろうに。


昭和26・1/ホッジョ・大塚幸男訳「風流道化譚」(鹿鳴社)