新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
2012/12/01 6:40:04|艶笑譚・日本
もっと声がよいはず

 ある人が、



「この家の宮法師殿が昨日の花見で一節歌った声の美しさは、言いようもなかった。耳を傾けて聞く者で、ほめない者はなかった」



と言う。母親が



「うちの宮法師はどうしてそんなにいい声が出るのかしら」



と独り言を言った。父親が



「まだ、女としてないからさ」



と小声で言ったのを女房が聞いて、



「女としなければいい声が出るっていうんなら、あなたなんか、さぞ、迦陵頻(かりょうびん)みたいないい声が出るでしょうよ」



と皮肉った。

※「迦陵頻」=「迦陵頻伽(かりょうびんが)」とも言う。顔が美女で身体が鳥という仏教上の想像の鳥。雪山にいて、仏の声とも思われる美声で鳴くという。当時、女を知ると声が濁ると信じられていた。



※江戸小咄『醒睡笑』・拙訳


写真:北杜市須玉町








アルバムを追加しました

左掲リンク「旅行社支店」に久々アルバムを追加しました。甲府湯村温泉です。


「旅行記」なんて大げさなものじゃありませんが。


自分にとっては懐かしい好きな街です。忘れ去られたくないのです。








2012/11/30 16:01:47|アート
リヒテンシュタイン侯爵家コレクション展

久しぶりに国立新美術館へ行く。リヒテンシュタイン侯爵家のコレクションの日本初公開。贅沢だ。


ルーベンスが10点もあり、それも異教的なテーマとか、婦人、子どもではない作品が多かったのは大きな収穫だった。それでも、私は「ルーベンスの偽画」などという小説名を想起しながら観て回る。めちゃくちゃ混んでいるわけでもなくて、助かる。


オーストリアとスイスの間という位置関係から17世紀のフランドルの作家、ブリューゲル父子、ヴァン・ダイクなどが見られたのもありがたい。ほかクラナッハ、ラファエロ……。


今回来たのがそうなのかもしれないが、「オリエンタル」ではない、「異教的」ばかりでもない、ヨーロッパの「大陸的」というか、何と表現していいか分からないが、洗練されきっていない力強さのある作品が多く、通好みのコレクションだと感じる。新聞社からチケットもらっていきなり来た人は辛かろうが。


観覧者の群がっているきらびやかな工芸品の数々は、私には「猫に小判」というものだが、ルネサンスやイタリア・バロックの絵画コレクションとしては久々いい観賞をした。


一方、昨年来筋肉を減らしてしまったから、長時間の歩行はしんどいなと思い知らされる。


写真:アンソニー・ヴァン・ダイク「マリア・デ・タシスの肖像」








2012/11/29 15:20:17|山梨
『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』

TVドラマ「平清盛」はそろそろ終盤に差し掛かっているようだ。視聴率が今一つであるようだが、子どもの頃、前九年の役、後三年の役、保元・平治の乱、為朝、弁慶、牛若丸……の戦記物語をワクワクして読んだ私にとっては、格別いやでもない。むしろ懐かしい。だから、たまには、手元の歴史小辞典で生没年や事件の勃発年を確かめたりしながら、日ごろ殆ど見ないドラマを眺めている。


ただし、アメリカ映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」を連想させるような登場人物のやつし方(汚し方)がリアリズムを越えてカリカチュアみたいになっているのが、最初少々気になった。最近では北条政子のなり。清盛はもちろん西行、後白河、頼朝、義経の人物形象もどうかと思うし、清盛が理想の国家経営者のように言うのもどんなものだろうとも。それとも現状からの憧憬か?


ドラマ中、子どもらしい声でしばしば背後に流される唄は、『梁塵秘抄』でもっとも有名な歌の一つである。



遊びをせんとや生(う)まれけん、戯れせんとや生(む)まれけん、遊ぶこどもの声聞けば、我が身さへこそ揺(ゆる)がるれ(359)


集中、これに続いているのが、以前このブログでも紹介した、巫女・傀儡女(人形まわし)の歌だろう甲斐の歌謡である。かなりセクシャルな意味合いと、山間の芸能民の性的なもてなしのニュアンスを感じる歌である。


ただし、後白河法皇がまとめさせた『梁塵秘抄』全20巻はまだ発見されていない。巻一の21首が室町時代の書写、巻二の545首は江戸時代の書写を竹柏園(なぎぞの)佐々木弘綱(信綱父)が持っていたもので伝わるばかりだ。この二か所しか知られていない。後者は明治44年になって発見されたものだ。


だから、甲斐にとどまらないが、全国ところどころの古代・中古・中世の歌謡の全貌は、いまだに分からないのである。


写真:2012.11 河口湖北岸で








2012/11/29 9:44:06|艶笑譚・世界
ほめられたと思った女のこと

 シェンナの或る人妻が、その愛人と事をすまして、寝物語をしていた。
愛人は厚かましくも



「こんなだだっ広い道を通ったのは初めてだ」



といってのけた。
女はそれを讃辞だと思いこんで答えた。



「そう、うれしいわ。でもあたし、そんなにほめていただく価値はなくってよ。あなたの言葉がお世辞でなかったら、あたしどんなに肩身が広いか、そしてどんなに自信が持てるが知れないんだけれど」

昭和26・1/ホッジョ・大塚幸男訳「風流道化譚」(鹿鳴社)