新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
2012/11/23 7:43:50|本・読書・図書館
「日本古書通信」1000号!

八木書店さんが古書目録を下さったなと思って見ると「日本古書通信」の11月号だった。しかも、第77巻第11号、通巻1000号という記念号である。発刊が昭和9年の1月だから77年目である。これもうれしくありがたい。


記念号らしく大学の名誉教授、コレクター、古書店主などが文章を寄せている。なかでも、八木壮一・小田光雄の対談「創刊の背景と果たしてきた役割」は神田神保町古書店街のなりたちにもかかわって面白い読み物になっている。


昭和の終わり、山梨県立文学館創設準備の頃、30万冊収蔵可能の書庫をどう活かすか、そのために開館までと開館後どういう作業をするべきかで苦しんだ日々が蘇ってきた。


我々が考えたのは、この大きな収蔵庫は「山梨出身文学者、ゆかりの文学者・作品」を調べ、研究するための書庫であり、閲覧室だろう、ということだった。そのためには開館時までに5万冊が必要だと県に申し出た。
「そのために予算がいくら必要か」
と言うから
「新刊、古書含めて5億だ」
と言ったら
「頭がおかしくなったのじゃないか」
と言われた。
「博物館・資料館・文学館はもとより大学文学部その他類似施設の所蔵図書数を調査せよ」
と言われたから、調査する。すればするほど、文学関係だけでそんなに所蔵しているところはなく、不利な数字しか出てこない。県立短大(当時)の先生からはなぜ文学館だけが……と投書される始末。


次に
「5万冊必要だというのなら、その目録を作れ」
と言われた。これも意地悪な指示だった。学芸員、司書総出で必要図書を書きだし始めた。真面目に選択して、2万冊を越えたところでリストに上げる本のスピードがぐんとおちた。作れなければ
「それみろ、はったりじゃないか」
と言われるだろう。文学者への「影響」というところも視野に入れて、外国文学でも基本的な全集は必要だろう、哲学だって、叢書類、復刻文芸誌は全部入れよう……とやってようやく5万冊を越えた。


その間、財政担当から
「全部買う訳にはいかないから、図書館との所蔵図書の分担を考えよ」
とか、
「三分の一くらいは『寄贈』でまかなえないか」
とか言ってきた。これも文学館と図書館の違いを指摘したり、個人所蔵本の偏りとかを説明したりして、なんとか攻撃をかわした。


5万2千冊の必所蔵本リストが出来上がって財政担当に持ってゆくと、
「もう、いい。」
と見もしないで返された。そして、


「5億円はあり得ないが、開館までの3年間で1億円分図書を買ってよろしい。補正を含めて予算をつける」
と言う。我ながら通った予算の大きさが信じられなかった。小尾十三の『雑巾先生』も与謝野晶子の『みだれ髪』も時価100万円である。多すぎるということはなかった。


それからの本集めに苦労した。神田神保町や高田馬場、石神井などめぼしい古書店にお願いして、山梨のテーマに関わる古書に気付いたら必ず連絡をほしいと言っておいた。一時は「山梨の文学館が神田の古書価格を吊り上げる」とまで非難された。


開館して24年、30万冊の書庫はすでに余裕がないという。


文学館の所蔵本、閲覧室がこういう意図で、こう整備されてきたことは、果たして県民に周知されているだろうか。でなければ、宝の持ち腐れである。


「古書通信」には、故三好行雄初代文学館長のことを思い出させてくれた記事もあったが、別稿で。








2012/11/22 8:05:15|本・読書・図書館
県立と市町村の図書館

北海道のある支庁の公共図書館協会で話をしたことがある。楽しい経験もしたが、それは別にして、講演の中身である。ここの協会では、山梨で司書をやり、山梨県内の某市立図書館(当時)を創ったという人の話を聞いたのだが、どうも納得がいかなかった。そこで、1年後、呼ばれることになったのだ。元司書は、


「利益を産まない図書館は、指定管理制度の下に入らなければ、未来はない」


と強調して帰ったという。この人は、「『安かろう良かろう』の図書館を創る」と言って、日本初の指定管理による町立図書館を山梨に創った人である。


私は、席上、


「社会的インフラであり、利用に公平性が保たれねばならない公共図書館は、公設公営でなければならない。コストと天秤にかけられない」


という趣旨で、話をした。


ちょうど、山梨でも、民間の資金で県立図書館を建設してもらい、指定管理制度による運営をしてもらうと唱えた県知事が、基本設計直前になって落選し、図書館建設は白紙に戻ったところだった。新しい知事は、県立図書館の「公設公営」を公約していた。いや、前知事以外の立候補者4名が、同旨の公約だった。


講演の最後を、


「私がこういう講演をして、もしも山梨の県立図書館が指定管理の施設となったら笑ってください」


と結んだ。会場からは笑いが漏れたが、私は冗談のつもりではなく、その時点でもかなりの危機感があったのだ。全国の市町村立の公共図書館は雪崩をうったように「指定管理制度」の下に再編成されつつあった。ないしは「民間委託」だ。都道府県立も、岩手県立をはじめ、次第にこの制度になって来ることが懸念された。前掲の元司書は、改築された岩手県立で、図書館流通センターという「図書館屋」に雇われて、指定管理者を請け負った(当時)。


今は指定管理制度のメリットもデメリットも広く認識されている。けれども、殆どすべての自治体で税収の落ち込んでいる状況下、デメリットが認識されていても、なおかつ、見栄も外聞もなくこの制度を導入しているのが実情だ。もちろん人減らし、資料費の抑制と並行だ。東日本の震災で破砕されつくした市町村立図書館はいまだに復旧できてはいない。職も住まいも充当できていないのに、何の図書館か、何の読書かと。「非常時」には常に言われることである。図書館を「読書施設」「趣味施設」と考えていると、福祉や教育、文化、芸術同様、財政悪化の折には「ひと」も「金」も切り捨てられる。


東北の各県立図書館が、傘下の地域住民、あるいは被災民の図書館利用の支援を十分にできているかと言えば、ノーである。子どもたちからシニアに至るまで、本を読ませてあげたい。十分な調べ物をさせてあげたい。企業活動や行政体の復旧に必要な十分んな情報提供もしなければならない。良心的な都道府県立図書館なら、敗戦後に戻って図書館バスを定期運行しなければならぬところまで事態は戻っている。図書館活動が劣化しているのだ。


ましてや、契約で成り立っている指定管理制度の図書館は、震災のような想定外の(契約以外の)状況では、自館の復旧に必死で、他館の支援までできない。国立→都道府県立→市町村立と支援しなければならないはずなのに。


山梨県立図書館建設過程の「新しい県立図書館を考える会」で、私は、「市町村立図書館に対する『県立』としての役割はどうなのか?」を何度かたずねたことがある。大規模災害などの影響を恐れ、市町村立図書館への県立図書館の責務のようなことを意識していたからだ。答えはいつも「市町村立との関係はこれまでと同様です」というばかりだった。


自然災害の後ばかりではない、図書館活動は図書館相互のネットワークで成り立っている。県立が偉いのではない。役割である。県立が要となってネットワークをどう維持するか。また、市町村図書館をどうバックアップしていくかの機能。県図書館と市町村図書館との、すりかえではない本当の「役割分担」と「連携」の協議が、今こそ必要だろう。


山梨県立図書館が再スタートした。「県立」としての本領発揮をこれから注視したい。








2012/11/21 6:29:43|艶笑譚・日本
花ぬすびと

 ある後家(ごけ)の家に押しいった賊が、よくよく、その女を見ると、残んの香りの捨てがたい風情(ふぜい)なので、ムラムラッとなり、行きがけのだちんとばかり、失礼して、立ちさろうとすると、後家が、



「泥棒……」



と一声。
 賊はふりかえって、


「なんだ!」
「こんど、いつきてくださる」

平野威馬雄『三百六十五夜』(近代社)








2012/11/21 6:28:17|山梨
古書店の「おまけ」

郷土出版の本をネットで見つけた。何店か出品している中に、地元の古書店があった。


送られてきた包みを開けてみると、頼んだ本そのものにも満足したが、挟みこんでくれた「おまけ」が気に入った。


発行所 甲府市若松町二八 甲府芸妓屋協同組合・甲府芸妓組合(昭和三十九年十月)
「甲斐路の栞 民謡集 芸妓名鑑入」


ずいぶんたくさんの地元の「(創作)民謡」(その殆どを知らない)があるのにびっくり。歌詞をたどっていて懐かしさに堪えられなかった。こういうものを唄える人がいるうちに「県民文化祭」あたりで復元でもしていただきたいものだ。そういえば、文化協会や「文化祭」にも民謡や邦楽の人もいるはずなのだが。こういうお座敷や夜の巷を連想させるものは、下品だと忘れ去られてしまうのだろうか。観光でも、風土のアイデンティティからも残念だ。


今の時季にふさわしい「ゑびす講音頭」の歌詞。いかに盛大だったかが偲ばれる。洋菓子の早川べーカリーの店頭に、賑やかだったゑびす講の仮想行列の面白い写真パネルが掲げてあった。(歌詞は冊子のママ)


一、晴れて甲府の街々見れば
  北に舞鶴南に遊亀
  中は音頭の人の山
  折返「サテ売つたり買つたり
      シヤントシヤン
      サテ売つたり買つたり
      シヤントシヤン」


二、あがる花火は千両や万両
  艶な舞台の囃子の上で
  ドンと開いた黄金草


三、金の鳥杉子に唄声ひめて
  竿で音頭とりや鯛まで踊る
  おどる祭の大福帳


四、めでためでたの音頭の中で
  当た福引大判小判
  縁起よいよい嫁仕度


それにしても大里の「かわうそ書店」さん、おまけをありがとう。








2012/11/20 7:48:17|艶笑譚・日本
邪淫(じゃいん)の訴人(そにん)

 大店(おおだな)の伜(せがれ)が久しぶりに廓(くるわ)に行ったところ、女郎(じょろう)の言うには、



「どうして久しく見えなかったんです?」
「それだ。さんざんだよ。もうお前にも会えないことになった」
「それはどうしてです? 商(あきな)いをしくじったんですか?」
「商いをしくじったわけではない」
「それなら、どうして?」
「それさ、お前に親父が会いたがっているからな」



と言った。


江戸小咄『軽口御前男』拙訳