新聞、雑誌等に書いたもの、どっかでしゃべったこと、書き下ろし……の置き場です。 主に文学・歴史関係が多くなるはずですが、何にでも好奇心旺盛なので、どこまで脱線するか?!。 モノによっては長いのもありますが、興味のあるところから御覧下さい。
 
2012/11/20 7:47:19|本・読書・図書館
買える図書館、読める書店

近くにも大型書店がいくつかでき始めている。岡島百貨店のジュンク堂(クセジュとか間違って覚えている)とか、双葉ラザウォークの熊沢書店、イオン昭和店の戸田書店。全国版のジュンク堂、八王子の熊沢、静岡の戸田。


「買える図書館」として、大型書店は歓迎だ。本と言うものは、今現在のテーマと関わらなくても、いずれ必要になってくることがある。また、こんな本もあったのかというセレンディピティも大型書店では得られる可能性が高い。


でも、我々は気をつけなければならないだろう。前にも大型店が進出してきたことはある。岡島百貨店の三省堂書店、亡くなったデパート西武のリブロなど。客が減れば、棚置きの本の更新も滞り、悪循環で客が減り、ついには撤退して行った。書店を育てるのは、やはり客だ。


また、棚にテーマを設けている小さな書店の魅力も捨てがたい。武田通りの星野書店(私の病気以来ご無沙汰だ)、また、銀座通りの春光堂書店も悪くない。


図書館が活発に活用されると共にシナジー効果で街中の本屋もにぎわってほしい。殿様も貴族もいなかったこの土地で、民衆のレベルを維持し、高めてきたのは教育力しかないのだから。ということは本を読む力だ。


本の町・甲府、新刊古書・本の市・甲府
「よい子の住んでるよい街は、楽しい楽しい本の町」となれば、さらに楽しい。


 








2012/11/19 6:43:29|艶笑譚・日本
軍旗祭

いくら無礼講のおまつりではあっても、軍律に生きる軍隊のことですから、証明がないと兵営内には入れません。ですから将校さんの姉妹だとか親類の者だということにして入ったものです。(中略)


素人の娘さんの話ですが、ある兵隊さんのフィアンセが軍旗祭にやってきて、


「××に面会したいんです」


と衛兵に告げたんですって。衛兵が××兵との続柄を聞きます。


「××とのご関係は?」


彼女、一瞬顔を赤らめて


「ハイ、一度だけです」


これはウソのようなホントのエピソードです。


中塚美佐子『芸者・美佐子』より「お座敷あれこれ・(甲府連隊)軍旗祭」


 








2012/11/18 9:42:41|その他
中塚美佐子『芸者・美佐子』を読む

四分の三の山梨県の血だが、甲府の街の元気だった頃の噂話は好きである。本ならできる限り読みたいし、持っていたい。この本も前から気になっていた本だが、ゆっくり読んでみた。思った通り、昭和の初年から末年までの甲府を知るには格好の本だった。目次の一部を追ってもゆかしい。


にごり川(濁川)と甲州音頭
野口雨情さんのこと
身延線開通
軍旗祭
大尽遊び
料理屋と旅館
えびす講
政友会と望仙閣
甲斐奈をどり
喜久大黒 等々


自分が餓鬼だった昭和30年代から社会人になった40年代の頃が、昼夜、一年中、甲府が賑わっていた最後の輝きだったのかもしれない。深町のおばさんが出てきはしないかと目を皿にしたが、はっきりしなかった。


それにしても、いつぞや元芸妓の踊りの師匠が嘆いていたが、ちょっと昔の甲府には「旦那衆」で洒落た遊び人が多かったものである。彼らに比べれば、うちの祖父などの「遊び」なんて可愛いものである。登場するのは、甲府の政財界人・企業家だったり、ジャーナリスト、文化人だ。彼らは遊び人であって、甲府の振興や伝統・文化の継承に全力で尽くしていた。尽くすとか「活性化」などという意識も語彙もなく。


先日、市内のある店にいたら、ローカル・ニュースなんかに出てくる商店街の会長がやってきた。
「ヴァンフォーレ甲府のJ2優勝・J1昇格祝賀会とえびす講の時にお客さんにやってくれ」
と饅頭みたいなものを数個置いていった。まことにささやかである。近隣の親戚がこれを機会に毎年泊りに来たえびす講の賑わいは、何処へ行ってしまったのか。


今や甲府に遊び人もいるんだかいないんだか、地域に尽くそうという人もいるのだかいないのだか、それだけの余裕があるのだかないのだか、寂しい限りである。甲府そのものに地場の人を引き付ける「町場」としての魅力がないのだ。


甲府、山梨のなつかしい風物詩、歳時記、地誌のような昔からの本を、機会があれば紹介していこう。知っている人の書き残したものだし、どれも魅力的なのだ。


写真:昭和26年の甲府若松町の置屋「喜久大黒」の芸妓たち。後列左端が抱え主の美佐子。








2012/11/18 9:27:12|文学
井上康明句集『峡谷』

井上氏から『四方』(平成12)につぐ第二句集『峡谷』(角川・21世紀俳句叢書)をいただく。


「自選十句」のうちから
人とある大黒柱冷やかに
秋風や切り出して岩横たはり
老鶯や墓石ひとつづつまどか
立ち上がる人に陰ある晩夏かな


作者が「あとがき」に書くように、句集は平成11年から24年春の作品である。もちろんこの間の氏の句境の深化を見るべきであろう。句集題『峡谷』は飯田蛇笏の決意の句


夏雲群るるこの山峡に死ぬるかな


を想起させる。


この間、「雲母」終刊、「白露」創刊、福田甲子雄の死、



潔癖の緑吹かるる巨摩野の木



飯田龍太の死、



春月や波立ちて波陰りたる



廣瀬直人の病臥、「白露」の終刊など激浪の時間だった。作者はその間、「白露」の編集部で編集同人として編集、企画、校正に携わっていた。


第二句集の刊行を喜び、恵贈を謝すると共に、氏の強い心身を期待すること切である。


 








2012/11/17 16:48:50|艶笑譚・世界
ある理髪師の意地悪いいたずらをこぼした娼婦のこと

 フィレンツェに、風紀係と称せられる司法官がある。
 これは特に売笑婦を裁き、売笑婦たちの市中を徘徊するのを懲罰をもって禁じる役目を帯びた人々である。



 これらの女の一人が或る日、この司法官たちのところへ来て、ある理髪師から侮辱と損害とを加えられたといって訴えた。



 その女は理髪飾を風呂場に呼んで剃刀を頼んだところ、理髪飾は女のちっちゃな部分を剃ってしまったので、数日間お客を取れなかったというのであった。



 彼女は損害を蒙ったとして理髪師を告発し、従って損害賠償を要求していたのである。



 これに対する判決はいかなるものであるべきかと人は問うであろうか?

※昭和26・1/ホッジョ・大塚幸男訳「風流道化譚」(鹿鳴社)を一部改作