記憶に強烈に残っている、
ヘッドカウンセラー就任以降のエピソードを、
『今年の海洋道中アーカイブス』として、
お話しさせて戴いています。
今日は、最も直近の
2019年度のエピソードです。
この年は非常に好天続きで、
プログラムも順調に進んでいました。
台風の影は見えていたものの、
我々のスケジュールを邪魔する事もなく、
無事に最大のイベントである、
『サバイバル踏破』の、日を迎えたのでした。
踏破での指導者の仕事は、
無事に歩いているか―
体調の悪い子はいないか―
などを見極める
パトロールと、
熱中症予防の為にも、
給水のサポートです。
一方で子ども達は、
島の方々に声を掛けて戴けるばかりか、
時にジュースや麦茶、良く冷えたスイカに、
島の名産パッションフルーツ・・・etc
はたまたアイスクリームに、
時には新鮮なお刺身まで、
色んな美味しい物を差し入れて下さいます。
ご厚意は有り難く頂戴して、
後日、お礼が出来る様に、可能な限り、
お名前と連絡先を伺う事にしていますが、
本当にさりげなく、
ほいっと渡して行ってしまう方が多く、
お気持ちの半分もお返しできていないのが、
残念ながら実情なのです。
が、本当に島の人たちの、
温かさを感じた子ども達は、
懸命に歩き、踏破をやり遂げる事で、
感謝の思いを返している気がします。
しかし一方で、見方を変えれば、
サバイバル踏破は、美味しい企画―
と、云う側面もあるのかもしれません。
が、やはり
炎天下では給水は重要です。
数年前までは敢えて給水を極力抑えて、
自分達で確保しよう―
そんな方向で指導していました。
給水に頼り過ぎると、
逆に給水過多になってしまう傾向も見られたからです。
が、歩く事に集中する余り、
給水できるポイントを通過してしまったり、
水を届ける前に足りなくなってしまったりで、
結果、熱中症を誘発してしまう―
そんな皮肉な状況も起きてしまったので、
必要時に随時給水する―
方向性に戻したタイミングが2019年でした。
しかも、体温を下げる目的もあって、
水に氷を入れて、
「冷たい水」を、
渡す事にしました。しかも麦茶です。
なので、水が割と安易に手に入る様になりました。
しかも、
ぬるい水じゃなくって、
冷たくて美味しい水です。
加えて、島の方々からのご厚意もあって、
水の大切さへの認識は遠のきました。
これって
ジレンマですよね。
健康面を重視したら、
環境面での
「水」への危惧や、
当たり前ではない「水」の存在についても、
意識が薄れてしまうのは哀しい事です。
そんな中で、
水を美味しそうにゴクゴク飲み干す、
子ども達の姿を間近で見て、
大きな違和感を覚え、
非常に重要な問題提起をした、
ボランティアリーダーがいました。
女性のリーダーでしたが、
彼女は、専門学校で医療事務を専攻し、
社会へ出るための勉強をしている学生でした。
子ども達は、指導者が来ると給水車に集まって、
嬉しそうに手を振り、水を満たしてもらう。
そこまでは、特に問題はない―
が、水筒やペットボトルに残っている、
ぬるくなった水―
おいしくない水―
を、無造作に道路に撒いて、
捨てる姿を目撃してしまったからからです。
まだ使える水が残っているにも拘わらず・・・
それは彼女の目には、
好ましい姿には、到底思えなかった―。
と、云う事です。
捨てられた水は、
正しく無駄水となったのですから・・・
そして踏破2日目の朝、
彼女はついにアクションを起こしました。
島の教育委員会の方が、
これから難所にアタックする子ども達のために、
冷たいスポーツ飲料(ペットボトル)を、
差し入れにビバーク地に届けて下さった時です。
彼女は先ず島の担当者に、
丁寧にお礼の言葉を伝えたうえで、
子ども達は既にここで給水し、
水筒は満たされている事を説明し、
お気持ちは嬉しく有り難いが、
そのペットボトルは、今は渡さないで欲しい―
その様に、島の担当者に伝えたのです。
昨日から、たくさん水やご厚意を戴いているが、
彼らは無造作に水を捨てている。
無意識だし、悪気が無い事も分かっているが、
彼らには、水の大切さを伝えなければいけない・・・
と、彼女は言ったそうです。
島の担当の方も随分と驚いたそうですが、
彼女の意志を尊重し、ゴール後のご褒美と云う事で、
ベースキャンプに、
彼女の班の分を届けて下さったのでした。
どうですか皆さん、
あなたは、こんな提言をする事ができますか相当の勇気と信念がなければ、
こんな提言は、おそらくできません。
言い方を変えれば、
子ども達の将来を左右する役割を担った事で、
本当に大切な事を伝えるために、
敢えてご厚意を断ったのです。
この話しを聴いて、
自分も、ベースキャンプに残っていた指導者も、
彼女の勇気に感嘆し、
給水を見直さなければいけない―
と、強く思いました。
早速ミーティングを行って、
2日目の給水方法を協議しました。
指導者が話し合って決めた方法は、
以下の通りです。
1、給水自体はそのまま続ける。
2,直接水筒に注ぎいれるのではなく、
ペットボトルに入れ替えて冷やした状態で渡し、
必要な分だけ使うよう指導する。
3,もし水を捨てる行為を目撃したら口頭で注意し、
残っている水を使い切る様に指導する。と、云う3点を共有し、給水を再開しました。
数時間後、彼女が引っ張る班を見つけ、
給水をする際、案の定、水を捨てた者がいました。
「ちょっと待て、何で水を捨てたんだ!?」
「だってぬるいし、まずい」
「美味しい水を渡すのが目的では無い。
脱水を予防するための水だからぬるくても問題ない」
背の高い男子は驚いて、自分を見返しましたが、
「大事な水を無駄にするな―」そのメッセージを受け取って、
ぬるい水を捨てる行為は、
以降一度たりともありませんでした。
そんなこんなで、
全ての班が無事に帰って来ました。
どの班も、大きな成長の跡が見られました。
そして迎えた2日後の、
ベースキャンプ撤収の日―
撤収作業を開始する前に、
あのリーダーの事を、名前を伏せて全員に伝えました。
直ぐにピンと来た子もいましたが、
踏破中の、「ある班の出来事」なので、
初耳、何それみたいな子も、当然いました。
けれど、踏破中に同じ事をしてしまった子は、
きっと、思い当たる節があったでしょう。
改めて、水の大切さにハッとしたに違いありません。
この日も猛烈な暑さになりそうな朝でした。
世界には水が自由にならない地域がたくさんある事、
水がふんだんにあることは当たり前ではない事、
水を廻って戦争が起きてしまう国がある事・・・
だから、改めて我々は水を大事に使う事にした。
今日の給水は時間を決めて一斉に摂ろう―
そう伝えて、30分に1回の飲水タイムを設け、
1時間に1回の休憩をして体温の上昇を抑える―
この様にメリハリを付けると、
驚いたのは作業能率が格段にあがったのです。
午前中いっぱいを撤収時間に充てていましたが、
備品のチェックまで含めても、
11時半には、まっさらな平地に戻ったのです。
一人のリーダーの発言が、
多くの者の気持ちを動かして、
大きな成果に繋がりました。
この様な成長が見られた事も、
海洋道中の大きなレガシーになっていきます。だからこそ、来年は絶対にやらないと・・・
できっこないをやらなくちゃ!!写真は、別の年の給水風景です。
2019年は、こんな感じに戻したのです。